経営陣からのメッセージ会長メッセージ

代表取締役会長 上釜 健宏

10年間の回顧と
皆様への感謝

代表取締役会長上釜 健宏

あるべきモノづくりへの回帰

過去10年間、TDKは多くの試練に直面してきました。2008年9月の「リーマンショック」に端を発する世界金融危機では、需要の急減に見舞われ大規模な人員削減という苦渋の決断を迫られました。2011年には、東日本大震災やタイでの洪水により事業インフラが甚大な被害を受け、1米ドル75円台にまで進行した円高も収益に深刻な影響を与えました。2013年には、当社加湿器による火災事故が発生し、尊い人命が失われることとなり、品質に対する重い責任を痛感させられました。そして、こうした環境変化は、モノづくり力の弱体化を浮き彫りにしていきました。その大きな要因は、「一貫生産」という伝統的なモノづくりの強みを失ったことにありました。

当社は創業以来、一貫生産によってモノづくりを鍛え上げてきたというのが、私の信念です。材料を原子レベルから磨き上げることで製品の進化を主導でき、他の模倣も防ぐことができます。品質保証のためには下流工程まで手掛けなければなりませんし、生産工程の合理化も、一貫生産によりはじめて可能になります。しかし当社は、かつての成功モデルだった磁気テープの水平分業体制を電子部品にも適用していった結果、電子部品に最適な生産体制を見失っていったのです。2013年3月期より大規模な構造改革を断行してきましたが、その主眼に置いたのはまさに「一貫生産」を取り戻すことでした。外注していた工程の内製化を含む国内製造拠点の集約に加え、世界4極開発体制の整備もその一環でした。お客様との共同開発を通じ、アプリケーションに精通してこそ一貫生産が完成するという考えがあったからです。

10年という歳月をかけ、我々はようやく「一貫生産」というあるべき姿に立ち戻ることができました。TDKは現在、一貫生産を基盤としたより高次元のモノづくりに踏み出しています。世界同一品質を実現する「ロケーションフリー」、そして「ゼロディフェクト」で差別化するモノづくりの大革新「TDKインダストリ4.5」です。

創業100周年に向けて歩むべき道筋

電子部品産業の国際競争力の高さをご評価いただくことがあります。しかし、「総合」部品メーカーにこだわり経営資源を分散していけば、競争力を保持し続けることができるとは限りません。私は、100周年を迎える20年先も自社の競争優位が持続する技術を見定め、そこにしっかりと軸足を置くよう、経営の舵を切る必要があると考えました。それが「磁性技術」です。1935年に、磁性材料「フェライト」の製品化を目的として設立されたTDKの歴史は、「磁性」という一本の線で貫かれてきました。TDKが歩むべき道は、我々のDNAともいえる磁性技術の深耕と、磁性技術を活かした事業領域をおいてほかにありません。私たちの夢は、「磁性といえばTDK」という地位を築くことです。そして、それは必ず実現させなければならない夢です。

磁性をコアに据えた今後のTDKは、カスタム化・モジュール化によって高い参入障壁を構築できる最先端・成長分野に照準を定め、そこで圧倒的なポジションを築いていかねばなりません。それは、すでにセンサ・アクチュエータ、エネルギーユニット、次世代電子部品等、将来のTDKを支える新規事業で萌芽しています。これまで収益成長を牽引してきたHDD用磁気ヘッドの市場環境は厳しい状況にありますが、独立系のトップ企業としての責任を果たしていかねばなりませんし、サプライチェーン全体を俯瞰しながら、これまでとは視点を変えた手を打てば、残存者利益を確実に得ていくことが可能だと考えています。一方、急速にコモディティ化が進む製品領域では、新陳代謝を活発化すべきですし、不得意な分野、莫大な投資が必要となる分野では、他社との協業を積極的に検討していく必要があります。2015年から2016年にかけて実施した買収や合弁の背景にあったのは、こうした戦略の方向性に関する考えでした。

社是である「創造によって文化、産業に貢献する」に込められた「独創の精神」もまた、創業100周年に向けて前進していくために取り戻すべきことと考えました。そのような私の想いを込め、創業80周年を迎えた2015年に「企業ビジョン」と「行動指針」を策定し、私自身も率先垂範しながら、全社への浸透を進めてきました。

創業100周年に向けた道筋を描くことができたと判断した私は、2016年に指名諮問委員会の審議を経て、石黒新社長にバトンタッチすることにしました。10年目という節目を迎えたことに加え、在任期間が長くなり周りが意見を言いにくい風土を作ってしまっては、企業が弱体化するという危機感もありました。何よりも石黒新社長こそ、これからのTDKの経営を託すにふさわしいと考えたことが、決断を後押ししました。

「磁性といえばTDK」の夢に突き進む

7年ほど前、閉鎖した磁気テープ工場の跡地を石黒新社長と視察したことがあります。その際、彼に「この工場がこうなったのは磁気テープ出身のお前にも責任がある。HDD用磁気ヘッドが好調なうちに次のことを考えろ」と叱責したのを覚えています。その時から彼が可能性を信じ、開発に向けて動き出したのが磁気センサでした。それが今に生きているわけです。次の成長の柱に強い想いを抱いている彼は、TDKを力強くリードしていってくれるはずです。石黒新社長には最初からCEOに就いてもらい、持ち前のスピードと行動力、グローバル感覚を活かして存分に活躍してもらいます。私はサポート役に徹し、また誤った方向に進まないよう取締役会長としてガバナンスを効かせていく考えです。

この10年間、厳しい時もご支援いただいた株主の皆様及びステークホルダーの皆様には、この場をお借りして心より御礼申し上げます。引き続き、石黒新社長のもと「磁性といえばTDK」という夢に突き進む当社を、何卒ご支援賜りますようお願い申し上げます。

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