なるほどノイズ(EMC)入門

第5回 静電気を吸収して回路を守るバリスタ

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

病気の治療には正しい診断と適切な投薬が求められるように、電子機器のノイズ対策にもノイズ発生のメカニズムとノイズ対策部品の原理を知ることが重要です。今号でご紹介するのは、ある種の電子セラミックスの面白い特性を利用したバリスタ。静電気による瞬間的なサージから回路を守る頼もしいノイズ対策部品です。

津波のようなサージを発生させる誘導雷

2004年の夏は、前年の冷夏が嘘のような記録的な猛暑の日々が続きました。夕立があれば涼しくもなりますが、アスファルトジャングルと化している大都市では、ヒートアイランド現象がつのる一方で、夕立はめっきり少なくなっているようです
夕立は夏の強い日差しで発達した積乱雲が降らす局所的な豪雨。積乱雲は雷雲ともいうように雷を伴い、時として送電線などに落雷して停電を起こしたりします。落雷しなくても雷雲が接近してくると、AMラジオにガリガリというノイズが入ることがあります。これは雷雲どうしの雲間放電に伴って発生する電磁波によるものです。

広範囲にわたり電子機器に甚大な被害を与えるのは、落雷よりもむしろ誘導雷です。雷雲の下部はふつうマイナスの電荷が分布しているため、雷雲が近づくと電柱に張られた配電線や電話線などにプラスの電荷が誘起されます。この状態において、雲間放電などによって雷雲のマイナスの電荷が中和されてしまうと、配電線や電話線に誘起されていたプラス電荷は津波のように大地(アース)に向かって流れ出します。これを雷サージといいます。
雷サージは瞬間的な衝撃波ながら、電圧は数千ボルト、電流は1千〜1万アンペアにも及ぶため、電子機器に侵入するとICなどは簡単に破壊されてしまいます。IC搭載の電話機が普及しはじめたころ、雷サージ対策が不十分だったため、ある地域の電話機が軒並み故障するという事故が起きました。   こうしたトラブルを防ぐために活躍するのがバリスタやアレスタ(避雷器)。発電所に設置される大型のものから、家庭配電用、電子機器用、自動車用など各種タイプが利用されています。

一定電圧を超えると抵抗値を下げて電流を流すバリスタ

昔、大河川の中流域にはしばしば"越流堤"というものが設けられました。河川が一定の水位を超えたとき、下流部を洪水から守るために、わざと堤防の一部を低くしておいて河川の水をあふれさせる分水路です。たとえていえばバリスタはこの越流堤のようなもの。雷サージなどが侵入してきたとき、自らがそのバイパス路となって電子機器の故障を防ぎます。

物質の電気抵抗は中学校の理科で習うように、R=E/Iというオームの法則に従うのが通常です(E:電圧、R:抵抗、I:電流)。ところが、半導体や電子セラミックスの中には、加えられる電圧によって抵抗値が非線形に変化する性質をもつものがあります。たとえばある電圧までは高い抵抗値を示し、その電圧を超えるといきなり抵抗値が下がって大電流を流したりします。バリスタはこの性質を利用した素子で、バリスタとは"voltage variable resistor"(電圧で抵抗値が変化するという意味)の略語です。
電子セラミックスは微細な結晶粒が多数集合した多結晶体で、バリスタに多用されるのは酸化亜鉛を主成分とするセラミックスです。結晶粒を取り巻く粒界は高抵抗の絶縁層となっていて、ある電圧までは電流を流しませんが、その電圧を超えると量子力学的なトンネル効果によって大電流を流します。
ツェナーダイオード(定電圧ダイオード)を2個向かい合わせにつないだバリスタ素子もIC保護に用いられますが、コンデンサを外付けする必要があり、実装面積を低減できないのが難点です。この問題を解決するのが積層チップバリスタ。酸化亜鉛のセラミックス層と内部電極を交互に重ねた積層構造のバリスタです。

人体から放電される静電気をカット

プラスチック類に囲まれた現代生活では、人体もまた雷雲のように静電気を蓄めこみます。また、近年は電子機器のモバイル化が進んで、ひんぱんに手に触れたり、機器どうしをケーブル接続したりする機会が多くなっています。このときに起こる静電気放電はIC回路の誤動作を起こしたりするので、積層チップバリスタの活躍の場は今まで以上に広がっています。
一般にバリスタに1mAの電流が流れたときの端子間電圧をバリスタ電圧といいます。低電圧駆動のIC回路を保護するためには、バリスタ電圧を低くする必要があります。ディスクタイプのバリスタではバリスタ電圧は50〜200Vもありましたが、積層チップタイプのバリスタによって10数V以下にまで低電圧化できるようになりました。

高速信号ラインにも使える低静電容量化タイプ

また、USB2.0のような高速信号ラインにはバリスタのコンデンサ成分である静電容量が影響するため、これをできるだけ抑制する必要があります。しかし、従来の積層チップバリスタは、サージ耐性を維持したまま低静電容量化することが困難でした。静電容量は電極面積に比例します。低静電容量化を図るために電極面積を小さくするとサージ耐性が低下してしまうからです。
そこでTDKでは独自のプラセオジム系酸化亜鉛を採用するとともに、高度な微細構造制御技術を駆使して、結晶粒の微細化・均一化技術を確立。こうした数々の先進技術によって開発されたのが積層チップバリスタAVR-Mシリーズ。高周波IC回路、インタフェース回路、USB2.0をはじめとする高速信号ラインなどに使用することで、電子機器の誤動作や静電気破壊を確実に防ぎます。

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