なるほどノイズ(EMC)入門

第7回 ノイズを反射・吸収するチップビーズ

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

0か1かのパルス電流として送られるデジタル信号は波形が命。この波形を崩すノイズを反射したり、吸収して熱に変換してしまうのが、フェライトならではの特性を利用したチップビーズ。回路に直列に挿入するだけですむので、基板パターン設計後のノイズ対策としても効果的。小型ながら実に頼もしいノイズ対策部品です。

UWB通信は近距離ながら超高速通信が可能な無線通信システム。
デジタル機器をワイヤレスで結ぶパーソナルネットワークに適する。
今後、無線LANと棲み分けながら発展すると予測されている。

パルス波はさまざまな周波数成分の集まり

このところ次世代の近距離無線通信システムとして、UWB(ウルトラワイドバンド)通信が注目を集めています。UWB通信は“USB2.0の無線版”とも呼ばれています。USB2.0はデジタル機器を簡単に接続できる高速インタフェース。その便利さをワイヤレスで実現するのがUWB通信というわけです。100Mbpsを超える光ファイバなみの通信速度により、ハイビジョンの動画データもリアルタイムに転送可能。無線LANなどと棲み分けて、ユビキタス時代のパーソナルネットワーク(PAN)の中核になるともいわれています。
一般的な無線通信は信号波を搬送波に相乗り(変調)させて伝送する方式です。一方、UWB通信は搬送波を使わず、データをきわめて広い周波数帯域(ウルトラワイドバンド)に、時間幅の小さなパルス波の列として送信します。パルス波というのはさまざまな周波数成分の集まりです。UWB通信は1ナノ秒以下という超短時間のパルス波を使うため、きわめて広い周波数帯域に信号が拡散されることになります。

2002年、米国FCC(連邦通信委員会)は3.1〜10.6GHzのマイクロ波帯を民間のUWB通信用に開放しました(日本や欧州でも周波数帯域の開放、規格策定の準備が進行中)。しかし、マイクロ波帯は新たな無線通信が参入できないほどの超過密状態です。3.1〜10.6GHzもの広い周波数帯を占有するUWB通信が、いったいなぜ許されるのでしょうか?
静粛にしなければならない会議の席上でも、隣どうしの会話は周囲に聞こえない程度なら許されます。UWB通信はそれと似たようなもの。パソコンはじめ身の回りの電子機器は、多かれ少なかれすべてノイズを放射しています。UWB通信では電波の強度をこのノイズ以下の微弱レベルに抑えることを条件に、広い周波数帯の使用が許されます。この規制値を超えると、他の無線システムとの干渉など、甚大なノイズ障害を起こすおそれがあるので、UWB通信機器・アンテナの評価がきわめて重要になるのです。

チップビーズはインダクタと抵抗の性質をあわせもつ

デジタル信号の矩形(方形)波も、基本周波数のサイン波とその高調波(基本周波数の整数倍の波)が合成されたものです。
信号ラインに電流が流れると磁力線が発生します。また、信号ラインには抵抗成分があり、信号ラインとグラウンド間には浮遊容量と呼ばれる目に見えないコンデンサ成分も存在します。信号ラインにはこうした回路図には描かれていない“隠れ素子”があるため、たとえ入力信号が理想的な矩形波であったとしても、波形が歪んだり、クネクネと波打ったりします(リンギング)。とりわけ送信側と受信側のインピーダンス(交流に対する抵抗)が不整合の場合、信号ラインの境界部で信号は反射波として戻され、回路の誤動作の原因になったり、ノイズとして周囲に放射したりします。

こうしたノイズ問題の簡便で効果的な対策として多用されるのが、フェライトの特性をたくみに利用したチップビーズです。チップビーズはネックレスなどに使われるビーズ(管玉)にちなんだネーミング。最も簡単なチップビーズは、中空のフェライトに導線を貫通させた構造となっています。このフェライトのトンネルの中に信号が通過させると、元の信号波形をほぼ保ちながら、ノイズ成分だけを除去することができます。 しかし、ノイズも信号と同じ電気エネルギーです。フェライトのビーズは、なぜノイズ成分だけを選択的に除去することができるのでしょうか?
これはチップビーズがインダクタ(コイル)と抵抗の性質を併せもっていることによります。低周波領域では主にインダクタ成分が機能します。インダクタは周波数に比例してインピーダンスが増加する性質を持っています。一般的にノイズは信号に比べ周波数が高いので、高周波でのビーズの高いインピーダンスは選択的にノイズに作用することになります。また低い周波数の信号に対してビーズは作用せず、全てを通過させます。
次にビーズのノイズに対する働きをもう少し詳しく説明します。先に述べたように低周波領域でインダクタ成分が機能するためノイズは反射され、高周波領域では主に抵抗成分が機能してノイズを吸収するという面白い特性を示すのがチップビーズ。この機能の切り替わる周波数は、抵抗成分(R=レジスタンス)とインダクタ成分(X=リアクタンス)が等しくなる点で、R-Xクロスポイントと呼ばれています。

チップビーズ選びに重要なR-Xクロスポイント

チップビーズの周波数-インピーダンス特性は、使用されるフェライトの材質に依存します。フェライトは外部磁界に容易に磁化され、また外部磁界の変化にもフレキシブルに追随する軟磁性体です。これはフェライト粒子が複数の磁区(最小の磁石単位)からなり、磁区どうしの境界である磁壁が、わずかな外部磁界の変化にもスムーズに移動するためです。しかし、外部磁界の変動が高周波領域となると、磁壁移動はそれに追いつけなくなり、ついには磁壁共鳴という現象を起こします。この周波数が共鳴周波数です。
フェライトの透磁率(磁束の通しやすさ)は、共鳴周波数以降は急減します。チップビーズの周波数-インピーダンス特性のグラフにおいて、インダクタ成分(X)の曲線が急降下するのもこのためです。
風邪薬も症状に合わせて使い分けなければならないように、チップビーズにもさまざまな周波数-インピーダンス特性があり、適切な選択が必要です。チップビーズの使用にあたっては、R-Xクロスポイントが重要なポイントとなります。R-Xクロスポイントが高周波側にあるチップビーズは、主にインダクタに近い性質を示し、R-Xクロスポイントが低周波側にあるチップビーズは、主に抵抗として機能するからです。信号の周波数にもよりますが、一般にインピーダンスの不整合ラインにおいては、R-Xポイントが低周波側にあるチップビーズほど、波形の歪みを効果的に除去できます。ただし、必要な信号が減衰しないように注意しながら選択します。
電子機器の小型・軽量・薄型化ニーズに対応して、最近では0402サイズ(0.4×0.2mm)の超小型積層チップビーズも開発されています。積層チップビーズはフェライト(シートやペースト)と電極ペーストを交互に積層して製造されるチップ部品。省スペースとローコストを図るため、複数の積層チップビーズを一体化したアレイタイプも使われます。

PAGE TOP