なるほどノイズ(EMC)入門2

第4回 多機能化する携帯電話の新たなノイズ問題

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

2010年頃に実現するといわれる4G(第4世代)端末も視野に入れて、携帯電話の進化はとどまるところを知りません。デジタルカメラ、iモード、電子マネー、ワンセグ放送、デジタル音楽プレーヤなどの多彩な機能に加え、最近ではフル・キーボードを備え、パソコンがわりに使える端末も登場。しかし、多機能化やデータ伝送の高速・大容量化とともに、携帯電話には新たなノイズ対策が必要になっています。

機器自身の内部ノイズがアンテナに回り込む"自家中毒"問題

今や通話機能はオマケともいえるほど高度なマルチメディア端末となった携帯電話。しかし、携帯電話は無線通信機器であることに変わりありません。電源ONされた携帯電話は、待機中でもたえず基地局との間で電波を送受信して位置情報を交換し、すぐに通話できるようにスタンバイしています。いわば基地局からの電波を受け取るべく、携帯電話のアンテナはたえず耳をそばだてているわけです。 ところが、内部のデジタル回路などから発生するノイズをアンテナが受信してしまうと、通話品質や液晶ディスプレイ(LCD)の画像品質を劣化させたりします。これが携帯電話における"自家中毒"というノイズ問題です。同様のノイズ問題は、ワンセグ放送を受信するためのアンテナに、機器内部のノイズが飛び込むことによっても発生します。
もともと自家中毒というのは無害であるはずの物質が、体内で有害物質に変化して、中毒を起こすことをいう医学用語です。電子機器においては、たとえ外部からの伝導ノイズ・放射ノイズを完全にシャットアウトしても、回路内部で発生するノイズにより、電子機器の性能に悪影響を及ぼすことをいいます。送受信用アンテナを有する携帯電話においては、多機能化が進めば進むほど、自家中毒の問題が増大することになります。
携帯電話の内部回路で大きなスペースを占めるのは、通信機能に直接関わらないLCD回路や各種アプリケーションの回路。LCDとCPUをつなぐ配線は、いわばアンテナのような働きをしてノイズを放射することがあり、自家中毒を起こす原因の一つになるのです。
携帯電話の多機能化にともない、この配線の信号線数は40本以上にも増加し、現在主流の2つ折り携帯電話では、FPC(フレキシブルプリント配線板)が使われています。ベースフィルムの上にハーネス(信号線の束)を形成したもので、しなやかに曲がるので、ヒンジ(蝶つがい)部での2つ折りが可能になるのです。ところが、FPCに信号電流が流れると、ハーネスがンテナとなって電磁ノイズが放射されてしまいます。このためFPCの末端部ではノイズをシャットアウトするEMC対策が不可欠となります。

LCDインタフェースはパラレル伝送から高速シリアル伝送へシフト

FPCからの放射ノイズ対策としてまず用いられるのは、インダクタ(コイル)とコンデンサを組み合わせたLCフィルタです。LCフィルタには通過させる周波数帯域により、ローパス、ハイパス、バンドパスの3タイプがありますが、EMIフィルタ(ノイズフィルタ)としては一般にローパスフィルタが使われます。デジタル信号は基本波とその整数倍の高調波の集まりであり、このうち高次の高調波成分がノイズとなります。このため、不要となる高調波成分を除去することを目的にローパスフィルタが使われるのです。
電子機器の中でもとりわけ小型・軽量化要求の激しい携帯電話においては、使われる電子部品の1つひとつに、小型化・薄型化が強く求められています。しかし、多数の信号線でつなぐLCDインタフェースでは、それぞれの信号線ごとにLCフィルタを挿入することになり、部品点数が増大し、回路基板はますます過密化してしまいます。そこで、省スペース化や実装コストを削減するために、複数のLCフィルタを1個にまとめたアレイ部品も使われています。
携帯電話の多機能化やコンテンツの増大とともに、LCDにはさらなる高解像度化と多色表示化が求められています。しかし、従来のパラレル伝送方式で、これを実現するとなると、FPCの信号線数は増えるばかりでなくノイズも増大します。そこで高速差動信号によるシリアル伝送方式がLCDインタフェースに採用されるようになりました。
位相が180°異なる差動信号を高速で順次伝送するのがシリアル伝送。パラレル伝送よりも信号線の本数を大幅に減らせるため、FPCよりも細いフレキシブルなケーブルで間に合います。これは携帯電話のデザインに大きな変化をもたらしました。ハーネスが細くなったために、ヒンジ部の自由度が増し、LCDやCCDカメラを180度回転させたり、反転させたりといったタイプの携帯電話が開発できるようになったのです。

先進の薄膜プロセス技術を応用した薄膜コモンモードフィルタ

携帯電話のLCDインタフェースのデータ伝送が、パラレル方式からシリアル伝送へとシフトするにしたがって、LCフィルタにかわる新たなノイズ対策部品が求められるようになりました。高速差動信号によるシリアル伝送は、外来ノイズに強いのが特長ですが、差動信号の位相の微妙なズレなどがコモンモードノイズを発生させるからです。パソコンと周辺機器を結ぶ差動伝送方式の高速デジタルインタフェース(USBやIEEE1394など)のケーブルが、コモンモードノイズノイズの発生源になることは前号でご紹介しました。それと同じ問題が携帯電話の内部回路で起きるわけです。そこで、これからの携帯電話にますます重要になってくるのがコモンモードフィルタです
コモンモードフィルタはフェライトコアに2本の導線を同方向に巻いたもの。信号電流は片方の導線を往路、もう片方の導線を帰路とするディファレンシャルモードなので、コイルに発生する磁束は打ち消し合い、コモンモードフィルタの挿入は信号波形に影響を与えません。一方、コモンモードノイズ電流は2本の導線を同方向に流れるため、発生するコイルの磁束は加え合わさることになり、インダクタンスが増加してインピーダンスが大きくなり、ノイズの伝播が阻止されます。これがコモンモードフィルタの基本原理です。高速データ伝送のデジタル機器において、コモンモードフィルタが活躍の場を大きく広げているのも、コモンモードノイズ電流だけを効果的に抑止するすぐれた特性をもつからです。
TDKでは携帯電話をはじめとする電子機器の小型・薄型化要求に応え、業界最小クラスの薄膜コモンモードフィルタも製品化しています。これはHDD用ヘッドなどで培った先進の薄膜プロセス技術を応用展開し、高磁束密度フェライト材の薄膜と高精細パターンの薄膜コイルを積層形成したもの。携帯電話をはじめとするモバイル電子機器の小型化・高機能化を推進する最先端のノイズ対策部品です。

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