なるほどノイズ(EMC)入門2

第10回 電源のEMC対策

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

DC-DCコンバータは電力ロスとノイズとの戦い

IC搭載の電子機器はスイッチング方式の電源が主流。小型・軽量・高効率さという特長をもちますが、ノイズの発生をともなうため万全のEMC対策が求められます。 加えて、近年はPOL(point of load)の手法により、多数のDC-DCコンバータが分散配置されるにつれ、受動素子であるパワーインダクタにも新たなノイズ対策が要求されるようになっています。

コンセントから供給される交流電流にはノイズが混じっている

発電所から送電線や変電所を経て、家庭やオフィス、工場などに供給される商用AC(交流)電流は、それほど安定したものではありません。多数の需要家が電源をON/OFFするたびに電圧が変動するばかりでなく、理論的にはサイン波である波形もノイズ成分などにより歪んでいます。変電所ではたえず配電系統を監視するとともに、波形の歪みをフィルタで補正しています。これは直流は通さず高周波になるほど通しやすいコンデンサと、直流はスムーズに通すものの高周波になるほど通しにくくなるコイルの基本性質を利用したもの。高圧・大電流用なので大型になりますが、電子機器に搭載されるLCフィルタと原理的に同じものです。

白熱電灯や電熱器の使用には多少不安定なAC電流でも問題ありませんが、ICを利用した電気・電子機器では、AC電流に乗って侵入するノイズが、ICの誤動作や破壊をもたらす危険性があります。そこでAC電源の入力側にはノイズフィルタが挿入されます。たとえばデスクトップ型パソコンの本体では、ACコードを差し込む電源コネクタ(アース端子を含む3端子)に、ソケットタイプの小型ノイズフィルタが搭載され、商用AC電流に重畳するノイズを除去してから、電源回路で交流を直流に変換しています。ノートパソコンなどのモバイル機器はバッテリの直流電流を利用しますが、ACコンセントから電力を得る場合は、交流を直流変換するACアダプタとつないでバッテリを充電しながら使っています。しかし、いかにAC電源ラインからの伝導ノイズをシャットアウトしても、電子機器の回路内部で発生するノイズには別の対策が必要になります。安定した直流が流れるはずのDC電源ラインにも、さまざまな原因によるノイズが侵入してくるからです。とりわけ近年はICの低電圧化・大電流化・高周波化が進み、DC電源ラインの受動部品に従来にも増して厳しい特性が求められるようになっています。

ACからDCへの変換にはシリーズ方式とスイッチング方式がある

電子機器は直流で駆動するため、交流を直流に変換する装置が必要です。その変換方式はシリーズ方式とスイッチング方式に大別されます。シリーズ方式は電源トランスによって交流電圧を変換してから直流に整流する方式。一方、スイッチング方式は交流を直流に変換してから、半導体素子のスイッチングにより、高周波トランスで電圧を変換する方式です。スイッチング方式ではトランスも他の部品も小型で済むので、全体的に小型・軽量化できます。また、エネルギー変換効率にもすぐれるため、電子機器の電源やACアダプタはスイッチング方式が主流となっています。

発電所からの送電線では、電線の抵抗によってかなりの電力が熱となって奪われます。これと同様に、電子機器内部においても、DC電源ラインの引き回しにより電力損失が発生します。とりわけノートパソコンや携帯電話などのモバイル機器においては、バッテリ駆動時間の延長のためにも、電力損失の低減は大きな課題となっています。そこで最近ではICのすぐ近くに専用のDC-DCコンバータを置いて、必要な電圧の直流電流を供給するようになりました。従来の集中電源から分散電源に変えるこの手法をPOL(Point Of Load)といいます。

POL電源として一般に使われるのは、インダクタ(コイル)とコンデンサ、半導体素子(ドライバIC、コントロールIC)を組み合わせたチョッパ方式のDC-DCコンバータです。直流電流はトランスによって電圧変換することができません。チョッパ方式のDC-DCコンバータ電源では、直流電流を細かく切り刻み(チョップ)、それらをつなぎ合わせることで、安定した電圧の直流を得ています。
AC入力のスイッチング電源についてはノイズ規格をクリアする必要があり、入力側にはコモンモードフィルタなどを用いたEMC対策部品が使われます。DC-DCコンバータに関しては現在のところノイズ規格は定められていませんが、ICの低電圧・大電流化が進むにつれ、DC-DCコンバータも高周波で大電流をON/OFFするようになっており、高周波ノイズの発生が以前に増して問題視されるようになりました。

POLにおいて無視できないパワーインダクタの漏れ磁束

DC-DCコンバータは小型・軽量・高効率という特長をもつものの、半導体素子のスイッチングに伴ってノイズが発生するという弱点を根本的に抱えています。ノイズ対策としてフェライトビーズを入れたり、出力側にフィルタ回路を入れたりしますが、電力損失となって効率が落ち、モバイル機器などではバッテリ駆動時間の短縮をもたらします。このため、ノイズ対策部品もできるだけ低電力損失な、例えば低抵抗のチップビーズ(TDK MPZシリーズ)などを使用するような手法がとられます。また、より高周波特性にすぐれたコンデンサの採用、大電流が流れる配線の短縮化、そしてパワーインダクタの漏れ磁束の低減なども効果的です。
DC-DCコンバータに使われるパワーインダクタは、磁性材料のコアに巻線をほどこした構造の素子ですが、コイルに発生する磁界でコアが飽和しないように磁束の通り道にキャップを設けるのが一般的です。ところが、このギャップからの高周波の漏れ磁束が、やっかいな問題を引き起こします。配線や周辺部品との磁気的結合によりノイズを発生させてしまうのです。
そこでTDKが開発したのが、低コアロス・ハイBs(飽和磁束密度)のマンガン・亜鉛(Mn-Zn)系フェライトをコアとし、外周面にギャップのない磁気結合型構造を採用したパワーインダクタVLMシリーズ。ロの字型コアと円柱状コアの組み合わせにより、ギャップを内部に形成したため、漏れ磁束は大幅に低減、より大電流での使用を可能にします。
また、フェライト以上に高い飽和磁束密度をもつ金属磁性材料を利用したのがパワーインダクタSPMシリーズ。金属磁性材料は電気抵抗が低いので高周波領域では、渦電流損失が大きくなりますが、 SPMシリーズのコアは金属磁性粉を樹脂でコーティングして圧縮成型したダストコア。樹脂成分がそのままギャップとして機能するため、漏れ磁束が全体に分散され、すぐれた特性を発揮します。さらにSPMシリーズは、金属磁性粉のコア材料の中に巻線を挿入して一体成型したモールド製品。小型・薄型かつ信頼性にすぐれるため、大電流対応が要求されるCPU駆動回路、通信基地局用電源などに、最適な先進のパワーインダクタです。

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