フェライト・ワールド

第6回 磁気記録の発展を支えたフェライト

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

磁気ヘッドは磁気記録装置のキーパーツ

鉄心にコイルを巻き、乾電池から直流電流を流すと、鉄心は電磁石となり鉄クギを吸いつけます。電流を切ると鉄クギは鉄心から離れますが、わずかながら磁化を残して、弱い永久磁石となります。鉄クギのかわりに鋼線を用い、鉄心のコイルに交流電流を流しながら鋼線をなぞっていくと、交流電流による磁化反転のパターンが鋼線に残ります。この原理を利用したのが、1898年に発明されたポールセンの鋼線式磁気録音機(テレグラフォン)です。鋼線が巻かれた円筒を回転させて、ヘッド(コイルを巻いた軟鉄コア)で鋼線をなぞり、マイクからの音声信号の電流を磁化パターンとして鋼線に記録していきます。再生の原理は電磁誘導です。鋼線をヘッドでなぞると、鋼線に記録されていた磁化パターンの変化に応じて、ヘッドのコイルに起電力が発生して電流が流れます。この電流がスピーカ(マイク兼用)の振動板を震わせて音声を再生します。
記録メディアとして、鋼線のかわりに磁性粉を塗布したテープを利用したのがテープレコーダです。世界初の実用機は1930年代のドイツで製作され、ラジオ放送などで利用されました。それまでは円盤レコードに、音声の振動を増幅して、機械的に溝を刻み込んでいく装置が使われていました。日本の終戦(1945年)のいわゆる“玉音放送”も、この方式による録音でした。
日本初のテープレコーダがソニーによって製作されたのは1950年です。NHKが街頭録音などに利用するようになり、ほどなく録音テープもTDKなどにより生産されるようになりました。1960年代になるとカセットテープレコーダやラジカセが登場してテープレコーダは一般にも普及。1970年代には音声ばかりでなく映像信号も磁気テープに記録するVTRが登場しました。もともと放送局用であったVTRを家庭用の小型機として実現したのは、日本の電機メーカーの技術です。
テープレコーダやVTRの磁気ヘッドのコア材料として多用されたのがフェライトです。磁気ヘッド用材料としては、低損失ですぐれた磁気特性とともに、テープ表面をなぞって記録・再生するために耐摩耗性が要求されます。磁性セラミックスであるフェライトは、磁気特性とともに耐摩耗性にもすぐれるため、ヘッド材料に適していたのです。ただ、フェライトは金属系の軟磁性体よりも飽和磁束密度が低いのが弱点です。そこで、ギャップの近傍に金属系の磁性膜(センダストなど)を配置したハイブリッド型の磁気ヘッドも開発されました。これをMIG(メタル・イン・ギャップ)ヘッドといいます。

磁気テープにイノベーションをもたらしたTDKの“アビリン磁性材”

ヘッド技術とともに磁気記録の発展を牽引してきたのは、記録メディアである磁気テープの技術です。
磁気テープはベースフィルムに針状の磁性粉を塗布したもの。この磁性粉がヘッドからの磁束によって磁化され、多数の微細磁石による磁化パターンとなって情報を記録します。針状にするのは磁化が弱まるのを防ぐためです。磁石内部には自らの磁化を減少させようとする反磁界の作用が働きますが、形状を細長くすることによって、反磁界の影響を少なくすることができます。鉄製の棒磁石が細長い形状となっているのもこのためです。
磁気テープの磁性粉としては、主に酸化鉄の1種であるマグヘマイト(γ-Fe2O3、ガンマヘマタイトともいう)が用いられます。マグヘマイトは天然磁石の成分で、フェライトと同じ結晶構造をもちます。ところが、マグヘマイトの結晶は粒状です。そこで、実に巧妙な化学的プロセスによって針状のマグヘマイトが合成されます。
文豪ゲーテの名にちなむゲータイトという鉱物があります(ゲーテは鉱物愛好家でした)。ゲータイトは水酸化鉄の1種(α-FeOOH)で、磁性体ではありませんが針状結晶をしています。この針状結晶の外形をそのまま生かして、酸化、還元などの反応によって組成を変え、水酸化鉄からマグヘマイトへと誘導していくのです。ごく簡単にいえば、水酸化鉄をまず赤さび(α-Fe2O3)にし、これを黒さび(Fe3O4)に変えてから、さらに酸化します。この一連のプロセスにより、外見は元の針状結晶を保ちながら、組成はマグヘマイト(γ-Fe2O3)という磁性粉となります。
磁気テープに画期的なイノベーションをもたらしたのは、TDKが開発した“アビリン磁性材”です。マグヘマイトの磁性粉にコバルトを混ぜると保磁力が高まることは知られていましたが、ただ混ぜるだけでは安定した特性は得られないという問題がありました。1973年、TDKでは針状の磁性粉の表面にコバルトを被着させるという新技術を確立し、磁気テープの特性を飛躍的に高めることに成功したのです。こうして、それまで音楽録音用としては不十分であったカセットテープは、アビリン磁性材の採用により、きわめてクオリティの高い音質で楽しむことができるようになりました。1979年になると、ミュージックライフを大きく変えたヒット商品“ウォークマン”が登場、TDKのカセットテープのすぐれた特性は広く世界に認められるようになりました。

磁気ヘッドに必要な特性をバランスよく持ち合わせたフェライト

テープレコーダやVTRの磁気記録には、ハードとソフトの磁性体の性質がうまく利用されました。磁気ヘッドに用いられるフェライトは軟磁性(ソフト磁性)材料で、 コイルに電流が流れるときにだけ一時的に磁石となって磁気テープの磁性粉を磁化します。かたや磁気テープに塗布される磁性粉は、磁気ヘッドによる磁化で情報を記録・保存するため、ある程度の保磁力をもった硬磁性(ハード磁性)材料です。しかし、永久磁石ほど大きな保磁力はもたないので、半硬磁性材料などとも呼ばれます(マグヘマイトの磁性粉は半硬磁性のフェライトです)。
磁性体の磁化のプロセスをグラフ化したものをヒステリシスループ(ヒステリシス曲線、B-H曲線)といいます。コイルに流す電流を大きくして、コイルからの磁界を強めるにしたがい、磁性体の磁化は増大し、やがて飽和に達します。電流の向きを逆にしていくと、磁性体の磁化は弱まり、やがて磁極は反転して飽和します。この過程をグラフ化すると、軟磁性材料ではやせたS字のループを描き、硬磁性材料では太ったS字のループとなります。
S字ループの立ち上がりが急峻なほど、外部磁界により敏感に磁化し(高透磁率)、S字ループが縦長なほど、より強い電磁石として作用します(高飽和磁束密度) 。また、この磁化反転過程においては、S字ループの面積に相当するエネルギーが熱となって消費されます。これをヒステリシス損失といいます。このため、磁気ヘッドとしてはできるだけ高透磁率で高飽和磁束密度、そしてヒステリシス損失の小さな磁性体が求められます。
軟磁性体にはいろいろなタイプがあり、それぞれの持ち味がヘッドコアとしても生かされます。たとえばカセットデッキの高級機などでは、メタルテープに適した金属系のセンダストヘッド(高透磁率で高飽和磁束密度)なども採用されました。しかし、カセットデッキ、VTR、FDD(フロッピーディスクドライブ)などの磁気ヘッドの主流として多用されたのはフェライトヘッドです。フェライトは飽和磁束密度は金属系コアに劣るものの、耐摩耗性にすぐれ、さらには電気抵抗が高いので金属系コアとちがって高周波でも渦電流損が少ないなどの利点を持ち合わせているからです。

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