フェライト・ワールド

第7回 超音波振動を発するフェライトのパフォーマンス

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

フェライトを生んだ日本の磁性材料学の系譜

偉大な発見・発明は無からいきなり生まれるわけではなく、先人から受け継がれた科学技術の系譜の中で開花し結実するものです。1930年、東京工業大学の加藤与五郎博士と武井武博士によって発明されたフェライトもまた、明治以来、築き上げられてきた磁性材料学の基礎の上に誕生した画期的な材料でした。
日本に磁性材料学をもたらしたのは、1878〜83年、東京大学のいわゆる“お雇い外国人教師”の1人として来日していたイギリスの工学者ユーイングです。前号で解説したように、磁性体に外部磁界を加えると、S字ループの磁化曲線を描きます。この現象を学生たちと実験・観察し、のちに磁気の“ヒステリシス”現象と命名したのはユーイングです。このユーイングに学んだのが日本の物理学の泰斗・長岡半太郎で、KS磁石鋼を発明した本多光太郎はその弟子です。武井武は本多光太郎が初代所長となった東北大学金属材料研究所で、合金材料の研究をしていたところ、その才能と卓越した実験技量が認められ、東京工業大学電気化学科の加藤与五郎教授により助教授として招かれました。そして、加藤教授から与えられたテーマを研究する過程で誕生したのが、世界初のフェライト磁石(OP磁石)とフェライト(ソフトフェライト)です。
ところで、長岡半太郎といえば、原子構造の解明の草分けとなった“土星型原子模型”を提唱したことで有名ですが、磁性材料の研究においても世界的な学者でした。長岡半太郎が研究したのは、磁性体に外部磁界を加えて磁化すると、わずかながら寸法が変化する“磁歪(じわい)”と呼ばれる現象です。19世紀半ば、“ジュールの法則”で知られるフランスのジュールが、ニッケル棒において初めて発見したため“ジュール効果”とも呼ばれます。
磁性体に交流磁界を加えると、磁歪によって伸縮を繰り返します。変電所のトランスや電柱に据えられた柱上トランスなどが、ブーンという鈍い“うなり音”を発するのは、商用交流による鉄心の磁歪によって起きる現象です。

超音波洗浄機などで活躍するフェライト磁歪振動子

磁歪という現象は磁性体の磁区の動きが関係します。磁区というのは磁性体を構成するミニ磁石で、フェライト(ソフトフェライト)の結晶粒子は複数の磁区からなる多磁区構造となっています。磁区どうしの境界を磁壁といい、外部磁界が加わると磁壁移動が起きて、磁界方向の磁区が占める領域が優勢となっていきます。さらに外部磁界を強めていくと、優勢となった磁区は周囲の磁区を次々と併呑(へいどん)して単一の磁区となり、ついには磁界方向に向きを揃えて磁気飽和します。これが磁性体の初磁化過程ですが、このときフェライト粒子は外部磁界の方向に寸法変化します(磁歪)。
磁歪による寸法変化はわずかなものですが、初磁化過程の中間あたりで交流磁界を加えると、寸法変化を繰り返して磁性体は振動します。この振動を外部に取り出して利用するのが磁歪振動子です。磁歪振動子は磁性体にコイルを巻いたもので、コイルに高周波電流を加えると超音波振動を発生する磁歪振動子となります。しかし、ニッケルなどの金属材料は電気抵抗が小さいため、高周波の磁界を加えるとエネルギー損失が大きくなってしまいます(渦電流によるジュール熱の発生)。かたや磁性セラミックスであるフェライトは電気抵抗が大きいので、渦電流損失が小さく、磁歪振動子として利用されるのです。
フェライト磁歪振動子はπ(パイ)形状のものが一般的です。π形状の脚の間にバイアス磁界として永久磁石をはさみ、両脚に巻きつけたコイルに高周波電流を流すと、磁歪現象によりπの上面部から超音波振動が放射されます。
電圧を加えると、外形が変化する圧電セラミックスを用いた超音波振動子もありますが、フェライト磁歪振動子はハイパワーの振動を出せるのが特長です。また、酸化物を主成分とするフェライトは塩水や酸・アルカリなどでの腐食がないため、魚群探知機や工業用の超音波洗浄機などで広く活躍しています。

焼成条件によってフェライトの微細構造は異なってくる

灼熱状態の鉄は磁石に吸いつきません。磁性体はある温度を境にして常磁性体となり、磁石に吸いつく性質を失うのです。この温度をキュリー温度(キュリー点)といいます。物質の磁性の研究において数々の業績を残したフランスのピエール・キュリー(キュリー夫人は彼の妻)の名にちなんだものです。磁性体の磁区は多数の磁性電子が整然と並んだ自発磁化の状態にありますが、キュリー温度以上では、磁性電子がバラバラの方向に向いて常磁性体となり、自発磁化をなくして磁石に吸いつかなくなるのです。
磁性電子がバラバラの状態から整然と並んだ状態になると、外形の寸法が変化します。これを数値化したものを磁歪定数といいます。フェライト磁歪振動子としては、磁歪定数が大きく、かつ機械的強度にすぐれたフェライトが求められます。フェライトはさまざまな組成のものがありますが、磁歪振動子として適しているのは、少量のコバルトフェライトを添加したニッケルフェライトです。
フェライトは原料粉末を成形・焼成して製造される磁性セラミックスです。たとえ、同一組成でも焼成温度や焼成時間、焼成雰囲気(焼成炉内の気体の種類・濃度)などにより、磁気特性や機械的強度などが変わってきます。
一般に、焼成温度が高いほど結晶粒子のサイズは大きくなり、結晶がゆっくり成長するほど結晶粒子どうしの境界である粒界層が厚くなっていきます。結晶粒が大きくなりすぎたり、またサイズが不均一になると、結晶粒どうしの隙間ができやすく、加わる応力に対して脆弱になります。磁歪振動子用フェライトとしては、結晶粒をあまり大きくせず、できるだけ均一なサイズで、また、結晶粒どうしの隙間や粒界の空孔を排除したものが求められます。TDKでは長年にわたり蓄積した焼成ノウハウをもとに高度な微細構造制御技術を確立、振動特性および機械的強度にすぐれたフェライト磁歪振動子を提供しています。

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