フェライト・ワールド

第8回 電子機器のノイズ対策とフェライト

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

“Suica” などのRFIDシステムでもフェライトが活躍

トランスやインダクタなど、巻線をほどこした電子部品を回路基板に複数実装するときは、その向きに注意が必要です。並列や縦列に配置したりすると、コイルから出る磁束が磁気結合して、発振などのトラブルを起こすからです。
この回路基板上ではやっかいなコイルどうしの磁気結合を積極的に利用したのが、IC乗車カード(SuicaやPASMOなど)、おサイフケータイやモバイルSuicaなどに利用されている“Felica(フェリカ)”と呼ばれるRFIDシステムです。カードや携帯電話に搭載されたRFIDタグのアンテナ(ループ状のコイル)と、リーダ/ライタ側のアンテナとの磁束のやりとりで情報を読み書きする電磁誘導方式の通信システムです。通信距離は数cm程度しかなく、近接させなければなりませんが、リーダ/ライタ側からの磁束変化をエネルギーとするため、カードに内蔵されたICはバッテリなしで作動します。
Felica機能をもつ携帯電話では、搭載アンテナの背面に軟磁性材料を用いた磁性シート(TDKの商品名はフレキシールド)が配置されたりします。というのも、アンテナの近くにバッテリパックやプリント基板などの金属面があると、リーダ/ライタとの磁束のやりとりに支障をきたすからです。金属のような導体に対して外部から磁束変化が起きると、導体は磁束変化を阻止するように、渦電流が流れて反作用磁束を生みだします。この反作用磁束によってリーダ/ライタ側からの磁束が相殺され、アンテナまで届かなくなってしまうのです(反作用磁束の詳細は本シリーズ第2回をご参照ください)。
磁性シートは、高透磁率の軟磁性体の薄片や粉末を、プラスチックなどに混ぜてシート状にしたものです。高透磁率の軟磁性体は、スポンジが水を吸うように磁束をよく集束します。このため、アンテナと金属面の間に磁性シートを挿入すると、バッテリパックなどの金属面で反作用磁束は発生せず、リーダ/ライタ側との磁束のやりとりがスムーズに行われるのです。同様の対策はリーダ/ライタ側にも必要です。駅の自動改札口、Felica対応のコンビニ端末、キヨスク端末などのリーダ/ライタ側のアンテナ背面にも磁性シートやフェライトプレートが用いられます。

ノイズ対策部品としても活躍する磁性シート“フレキシールド”

エネルギーの伝達や変換には、必ず損失がつきまといます。たとえば、トランスの1次巻線に交流電流を流すと、発生した磁束はコアの中を流れ、電磁誘導によって2次巻線に起電力が発生します。磁束変化によりエネルギーを伝達するわけですが、このときエネルギーの一部はコア内で熱となって奪われます。この磁気損失をコアロス(コア損失)といいます。とりわけ鉄などの金属系磁性体は電気抵抗が小さいため、前述の渦電流による発熱が問題になります。これを渦電流損失といい、高周波領域では周波数の2乗に比例して急増します。電磁調理器、IHジャー、高周波溶接などのように、この発熱を積極利用したものもありますが、高周波用トランスコアとして鉄などの金属系磁性体はとうてい使えません。
かたやフェライトは金属酸化物を主成分とする多結晶体であるため電気抵抗が高いのが特長で、高周波領域でも低損失のコアとして使用できるのです。また、高周波になるほどコア面積も小さくてすむので、フェライトはトランスの小型化にも貢献します。
渦電流損失のほかに、ヒステリシス損失というコアロスもあります。第7回で説明したように、磁性体の磁化過程は、ヒステリシスループと呼ばれるS字型の閉曲線を描きます。コイルに交流電流を加えると、ヒステリシスループを周回しながら磁化反転を繰り返しますが、このときループ面積に比例した磁気損失をもたらします。これをヒステリシス損失といいます。このため、高周波用フェライトコアは結晶粒子をできるだけ均一化して高密度化した材質が選ばれます。こうすることで、ヒステリシスループは細いS字ループとなり、ヒステリシス損失が軽減するからです。
TDKのフレキシールドは13.56MHzというフェリカの使用周波数において、磁気損失が小さく(ローロス)、かつ高透磁率(ハイミュー)を示す材料なので、 Felica 対応の携帯電話などに利用されています。しかし、磁性体の透磁率は周波数によって変化します。すべての周波数範囲において、ローロス、ハイミューの特性をもつ磁性体というのは残念ながら存在しません。フレキシールドも100MHzから1GHz以上の高周波領域となると、かなり大きな磁気損失をもつようになりますが、この磁気損失を積極利用することで、フレキシールドはノイズ対策部品としても応用できます。
一般にノイズというのは、信号電流の周波数よりもはるかに高い周波数成分の電流で、電子機器においてはICやフラットケーブルなどから放射されます。そこで、これらの表面にフレキシールドを貼り付けると、フレキシールド内の磁性体の磁気損失により、高周波ノイズを熱に変換して消滅させることができるのです。回路の高密度化が進む携帯電話などにおいて、機器自らが発生するノイズによって回路が悪影響を受ける“自家中毒”問題の解決にも、TDKのフレキシールドはまるで“魔法の膏薬”のようなすぐれた効能を示します。

フェライトの持ち味を生かしたチップビーズとコモンモードフィルタ

フェライトを用いたノイズ対策部品として、チップビーズと呼ばれるものがあります。フェライト材の中に導線を貫通あるいは数回ターンさせたシンプルな構造の電子部品です。信号がチップビーズの導線の中を通過すると、信号電流に含まれる高周波のノイズ成分が除去されます。
チップビーズはインダクタ(コイル)と抵抗の性質をあわせもつ電子部品です。コイルは変化する電流に対して、それを阻止するように起電力を発生します(自己誘導現象)。このため、コイルは直流はスムーズに流すものの、交流に対してはインピーダンス(交流における抵抗)をもち、交流にブレーキをかけるように作用します。これは周波数が高いほど顕著となるため、高周波ノイズは反射されてしまうのです。
ノイズは広い周波数帯にまたがっています。チップビーズは、ある周波数領域まではコイルのインダクタ成分(X)がメインとなってノイズを反射しますが、より高い周波数領域では抵抗成分(R)がメインとなってノイズを吸収して熱に変換します。この機能が切り替わる周波数をR-Xクロスポイントといいます。回路設計においては、除去したいノイズの周波数に応じた適切なR-Xクロスポイントのチップビーズが選ばれます。
電子機器のノイズ対策としてますます重要性を増しているのは、コモンモードノイズ対策です。信号電流のように往路と復路をもつノイズをディファレンシャルモードノイズといい、往路・復路に無関係に同じ方向に流れるノイズをコモンモードノイズといいます。電子機器のデジタル化・高周波化とともに、インタフェースケーブルなどから発生する放射ノイズは、床や地面などを通じて他の電子機器にコモンモードノイズ電流として侵入して悪影響を及ぼします。このため、USBやHDMIといった高速インタフェースのコネクタ部には、コモンモードフィルタの搭載が不可欠になっています。
コモンモードフィルタは、フェライトコアに2本の導線を同じ方向に巻いた構造の電子部品です。巻線に電流が流れるとコアに磁束が発生します。信号電流は往路・復路が逆向きのディファレンシャルモードなので、発生する磁束も逆向きとなり、コア内部で相殺されてしまいます。このためコモンモードフィルタは信号電流に影響を与えません。一方、コモンモードのノイズ電流は同じ向きに流れるので、コア内に発生する磁束も同じ向きとなり、磁束は合成されて強め合います。これがブレーキ作用となって、コモンモードのノイズ電流は通過を阻止されてしまうのです。コモンモードフィルタは信号電流を減衰させることなく通過させるとともに、信号波形をきれいに整える効果をもつノイズ対策部品。電子機器ばかりでなく、各種車載LANなどへの搭載も広がっています。

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