フェライト・ワールド

第9回 DC-DCコンバータとパワーフェライト

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

電源デバイスに用いられるパワーフェライトの特性

フェライトをはじめとする軟磁性材料とは、いわば眠れる磁石のような磁性体で、外部磁界が加わると磁石としての性質に目覚めて磁化します。この目覚めの良さを初透磁率といいます。磁化過程をグラフ化したヒステリシス曲線(BHカーブ)でいうと、初磁化曲線の立ち上がりの度合が初透磁率です。
アンテナコイルや信号伝送トランスなどのフェライトコアは、一般に弱い交流磁界において使用されます。ヒステリシス曲線でいうと、初磁化曲線の途中のマイナーループの範囲です。これらのフェライトコアは入力信号を高効率で忠実に伝送するのが目的なので、高透磁率の材質が選択されます。
一方、電源トランスなどには、それに適した別タイプのフェライト材が使用されます。これをパワーフェライトといいます。電源トランスは電力伝送を目的とするため、強い交流磁界が加わります。このため、トランスコアとして使用されるパワーフェライトには、目覚めの良さ(高透磁率)はもちろん、パワフルかつムダのない特性が求められるので、高飽和磁束密度で低パワーロス(低電力損失)のフェライト材が適していることになります。
ところが、これらの特性をすべて満足させるのは容易ではありません。フェライトは微細なフェライト結晶粒からなる多結晶体で、結晶粒どうしの境界を粒界といいます。金属系磁性体とくらべてフェライトが高い電気抵抗値をもつのは、結晶生成過程で粒界に微量添加物や気孔などが偏析するからです。粒界層を積極的に生成させて電気抵抗を高めることにより、パワーロスの原因の1つとなる渦電流損失を減らすことができます。しかし、そうすると磁性をになう結晶粒の密度が小さくなり飽和磁束密度が下がってしまいます。飽和磁束密度、透磁率、比抵抗という特性のバランスをとりながら、パワーフェライトの高性能化を図るにはきわめて高度な技術を要するのです

スイッチング方式の電源にフェライトは不可欠な材料

電子機器のほとんどにICが使われています。ICをエラーなしに作動させるには、安定した電圧の直流を供給しなければなりません。これを直流安定化電源といいます。商用交流を整流したばかりの直流では電圧変動が残っていて安定度が悪く、またバッテリ駆動の電子機器でも、バッテリ電圧はしだいに低下していくので直流安定化電源が必要になるのです。
直流安定化電源はリニア方式(シリーズ方式)とスイッチング方式に大別されます。ドロッパ・レギュレータなどと呼ばれるのはリニア方式の直流安定化電源です。原理はきわめて簡単で、定電圧ダイオードや3端子レギュレータなどの半導体素子を用いて、電圧の変動分をカットして一定にならす方式です。しかし、原理的には簡単でも、カットされた電力は熱としてムダに捨てられてしまうので効率が悪いのが欠点です。
そこで、高効率な直流安定化電源として多用されているのがスイッチング方式のDC-DCコンバータです。交流から整流されたばかりの非安定な直流あるいはバッテリの直流を、スイッチング回路によってパルス電流に変えてトランスに送り、2次側でつなぎ合わせて直流に戻す方式です。このとき制御回路でパルス幅を調整されるため、つなぎ合わせたときには一定電圧の安定した直流となります。
たとえば丸太から板を製材すると、丸太の直径を超える幅の板は得られず、ムダな端材も出ます。これをリニア方式とすると、スイッチング方式は集成材のようなものです。丸太を多数の細棒にカットして、これらをつなぎ合わせることで、自由な幅の板材が得られます。また、ムダな端材も出ず効率的です。
スイッチング方式において直流をパルス電流に変換するのは、直流のままでは電圧を昇降できないからです(パルス電流は交流の1種なのでトランスで変換可能)。スイッチング方式は高効率であることに加えて、スイッチング周波数が高いほど、トランスコアを小さくすることができるのもメリットです。そこで、スイッチング方式の電源では数10kHz〜1MHz以上の高周波が用いられます。しかし、このような高周波ではケイ素鋼板のような金属系材料は使えません。渦電流損による発熱ロスが大きくなってしまうからです。その点、フェライトは電気抵抗値が鉄の100万倍以上も高いので、渦電流損が少なく、DC-DCコンバータの高周波トランスに不可欠の材料として使われるのです。

HEV用DC-DCコンバータの小型・軽量・高効率化を推進

フェライトの特性は一様ではなく、トランスなどのコアロスは温度によっても変化します。そこで電子機器のDC-DCコンバータでは、稼動温度帯域(一般的に約60〜100℃)においてコアロスが最小になるようなパワーフェライト材を選択して省電力化を図っています。しかし、車載電子機器、とりわけHEV(ハイブリッドカー)用DC-DCコンバータなどにおいては事情が変わってきます。
HEVのモータ走行はメインバッテリに蓄えられた電力によってまかなわれます。メインバッテリは200〜300Vの高電圧ですが、カーナビなどの車載電子機器を作動させるために低電圧(14Vなど)に変換する必要があります。これをになうのがHEV用DC-DCコンバータです。
DC-DCコンバータの効率に大きく関わるのは、トランスコアのコアロス-温度特性です。一般的なパワーフェライトは、ある温度範囲でコアロスが最小となる谷型のコアロス-温度特性を示します。しかし、屋内で使用される電子機器とちがって、自動車は酷寒から灼熱までの温度環境の中で走行するため、HEV用DC-DCコンバータでは、広い温度範囲で低ロスのフェライト材が求められるのです。
出発原料(焼成によってフェライトを生成する酸化鉄その他の原料粉末)の高度な均一化と微量添加物の高精度コントロール、焼成プロセスの見直しなどにより、−40〜+120℃という広い温度範囲にわたって、高飽和磁束密度を維持しながら、業界トップレベルの低ロス特性を実現したのがTDKのパワーフェライトPC95材。従来材と比較してHEV用DC-DCコンバータのメイントランスのコアロスを、30〜40%も低減する画期的な材料です。
TDKがHEV用DC-DCコンバータの生産を開始したのは1995年。DC-DCコンバータの設計は熱との戦いです。TDKでは蓄積したフェライト技術やトランス技術に加えて、熱シミュレーション技術を駆使した放熱設計などにより、HEV用DC-DCコンバータの小型・軽量・高効率化をリードしてきました。トランスコアにPC95材を用いたTDKのDC-DCコンバータは、国内外のHEVに採用され、省エネ走行に大きく貢献しています。

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