フェライト・ワールド

第10回 積層技術・薄膜技術とフェライト

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

世界に先駆けて製品化したTDKの積層チップインダクタ

携帯電話やパソコンなどの電子部品として使用されるコイルはインダクタとも呼ばれます。コイルが磁束変化に感応して誘導性の(inductive)起電力を発生することによります(電磁誘導現象)。その働きの大きさをコイルのインダクタンス(単位はH:ヘンリ)といい、コイルの断面積、巻数の2乗、コア(磁心)の透磁率に比例して大きくなります。
電子部品のインダクタは工法の違いにより、巻線系、積層系、薄膜系に大別されます。大電流が流されるパワーインダクタ(電源用インダクタ)としては、主に巻線系が使用されます。巻線系のパワーインダクタはフェライトのドラムコアに銅線を巻いた構造になっていて、高透磁率・低損失のフェライトコアを用いることで小型でも大きなインダクタンスを得ることができます。また、高透磁率・低損失のフェライトコアは同じインダクタンスでも銅線の巻数が少なくてすむため、銅線の直流抵抗(Rdc)が小さくなり、バッテリの消費電力の低減にも寄与します。
信号ラインのフィルタ回路やインピーダンスマッチング回路などでは、積層チップインダクタが主流として使われます。積層チップインダクタはフェライトシートの上にペースト状の金属材料(Agなど)でコイルパターンを印刷し、これを多層積層することで製造されます。1980年にTDKが世界に先駆けて製品化したもので、ポータブルラジオ用のSMD(表面実装部品)インダクタとしての採用に始まり、現在ではさまざまな電子機器で多用されています。立体的なコイルがフェライトにすっぽり覆われた構造となっているので、フェライトによる磁気シールド効果により、磁気漏れが少なく、回路基板での高密度実装にも適したインダクタです。
フェライトの透磁率は周波数によって変化します。数100MHz以上の高周波ともなると、フェライトは損失が大きくなって使用できなくなってしまいます。そこで、高周波用インダクタではフェライトではなく誘電体セラミックスを基材とする積層インダクタが用いられます。
高周波ではしだいに損失が大きくなるというフェライトの性質を逆手にとって利用したのがフェライトビーズです。積層チップビーズは積層工法によってフェライトの中にらせん状の導線パターンを形成して製造されます。構造も製法も積層チップインダクタと似ていますが、積層チップビーズは高周波のノイズ成分を損失として吸収し、熱として除去する働きをします。

HDDヘッドの薄膜技術を応用展開した薄膜コモンモードフィルタ

近年、多層プリント基板の使用や、電子部品をセラミックスの多層基板(LTCC)などに埋め込むモジュール化の進行により、積層チップ部品には小型化もさることながら、さらに高さを抑えた低背化が求められるようになっています。TDKではHDDヘッド製造で培った薄膜プロセス技術を応用展開して、フェライト基板に金属導体の薄膜コイルを形成した薄膜インダクタの製造技術を確立。薄膜コモンモードフィルタや薄膜BPF(バンドパスフィルタ)など、さまざまな薄膜デバイスを提供しています。
薄膜インダクタはHDDヘッドの書き込み素子のコイルと同じように、フォトリソグラフィやめっきなどの工程を繰り返し、基板にスパイラル(渦巻き)状の薄膜コイルを形成することで製造されます。基板にフォトレジスト(感光性樹脂)を塗布し、フォトマスクによってコイルパターンを露光・転写して現像処理すると、光が当たらなかった部分のレジストが残ります(感光した部分を溶解させるポジレジストという処理法。感光した部分を残す処理法はネガレジストという)。これにめっきをほどこして、レジストを除去すると、めっき層がコイルパターンとして現れます。
この薄膜インダクタ技術を利用して開発したのがTDKの薄膜コモンモードフィルタです。本シリーズ第8回でご紹介したように、フェライトのリングコアに2本の巻線を同じ方向に巻いたものがコモンモードフィルタの基本構造。信号電流に影響を与えず、コモンモードノイズだけを除去するEMC対策部品です。小型SMDタイプのコモンモードフィルタでは、自動巻線に対応させるため、リングコアではなく、ドラムコアに導線を巻いてから平板状のSPコアを取り付けて、コア全体を環状にした構造となっています。TDKでは米粒よりも小さな2012サイズ(2.0×1.2mm)も製品化していますが、回路の省スペース化が極限まで進んでいる携帯電話などでは、さらなる小型・低背化が求められるようになりました。
こうした市場ニーズに応え、TDKが開発したのが薄膜コモンモードフィルタです。フェライト層の中に薄膜導体の2つのコイルを対向させた積層構造となっています。この薄膜コモンモードフィルタにより、実装面積は従来の半分以下という大幅な省スペース化を実現しました。

ESD保護素子を薄膜工法で内蔵させた薄膜コモンモードフィルタ

USBケーブルやHDMIケーブルなど、高速デジタル信号が流れるケーブルはノイズを放射するアンテナとして機能するため、EMC対策としてインタフェース部にコモンモードフィルタの搭載が不可欠になっています。その一方で、携帯電話、スマートフォン、デジタルカメラ、携帯音楽プレーヤといったモバイル機器は、手で触れることが多いため、コモンモードノイズ対策とは別に、インタフェースの端子部のESD(静電気放電)対策が求められています。人体からの静電気放電は数千Vにも及び、無対策のままでは回路の誤作動やICの破壊といったトラブルの原因にもなるからです。
そこで、TDKが新開発したのが、ESD保護素子内蔵コモンモードフィルタです。ESD対策部品として半導体セラミックスを用いたバリスタが使われています。しかし、高速化が進むデジタルインタフェースにおいては、バリスタがもつ端子間容量(端子間がもつコンデンサ成分)が要求特性に適合できなくなってきます。
このため、端子間容量の小さなマイクロギャップ方式のESD対策部品が注目されるようになりました。これは2つの電極を微細なギャップを設けて対向させた素子です。人体からの静電気が加わると、ギャップ間に放電が起きて回路を保護します。従来、電極をガラス管に封入したタイプなどが使われてきましたが、TDKでは先進の薄膜プロセス技術の投入により、薄膜コモンモードフィルタの積層構造の上にマイクロギャップ方式のESD保護素子を薄膜形成する技術を確立しました。マイクロギャップ方式のESD保護素子を薄膜工法で形成するにはきわめて高度な技術が要求されます。TDKでは最適材料の選択と安定した特性が得られるギャップ電極構造の考案などにより、この課題をクリアしました。2つの機能素子を薄膜工法により一体化したことにより、部品点数や実装面積を削減し、モバイル機器の小型化・高機能化に大きく貢献します。

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