フェライト・ワールド

第12回 素材・成形・焼成技術の結集によるフェライトマグネットの進化

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

双子の兄弟として誕生したハードフェライトとソフトフェライト

フェライトは、1930年、東京工業大学の加藤与五郎博士と武井武博士によって生み出された日本オリジナルの磁性材料です。
加藤博士の指導のもと、亜鉛精錬の過程で“邪魔もの”として生成されるフェライトの研究をしていた武井博士は、ある偶然から強い磁性を示すフェライトがあることを発見しました。武井博士は自作した“磁気てんびん”装置で、電気炉で加熱しながらフェライトの磁性を測定していましたが、ある日、うっかり装置のスイッチを切り忘れて帰宅したところ、翌日、フェライトが強い磁気を帯びて、磁気てんびんが大きく傾いていることに気づいたのです。装置の電磁石からの磁界が加わったままだったので、フェライトがゆっくりと冷却する過程で強く磁化されたのです(磁界中冷却効果と呼ばれた)。
これが世界初のハードフェライト(フェライトマグネット材料)で、その研究の中から、ほどなく武井博士は別タイプの軟磁性のフェライトも発見しています。これがトランスコアなどに多用されているフェライト(ソフトフェライト)です。ハードフェライトとソフトフェライトは、武井博士の研究室から双子の兄弟のように相次いで産声を上げたのです。
1930年代は高周波技術の黎明期で、フェライトの応用は未知のままでしたが、一方、ハードフェライトは奇想天外な新磁石として注目を集めました。当時、磁石は金属というのが常識で、鉄サビのような金属酸化物を主成分とし、セトモノのように焼成したセラミックスが磁石になるというのは画期的な発見だったのです。
武井博士が発明したフェライトマグネットおよびフェライトは、MO・Fe2O3という化学式で表されるスピネル型結晶構造の複合酸化物で、Mには2価の金属イオンが入り、Cu(銅)イオンの場合は銅フェライト、Zn(亜鉛)イオンの場合は亜鉛フェライトと呼ばれます。ちなみに磁鉄鉱(マグネタイト: Fe3O4 =FeO・Fe2O3)は、Mに2価の鉄イオンが入った鉄フェライトです。紀元前の昔から知られていた天然磁石は、この磁鉄鉱の仲間のいわば天然のフェライトマグネットです。
武井博士が発明した新磁石はコバルトフェライトとマグネタイトの固溶体で、OPマグネットと名づけられました。これは東京工業大学がある“大岡山のパーマネントマグネット(永久磁石)”という意味と、酸化物粉末(オキサイド・パウダー)を原料とするという意味を兼ねた命名といわれます。

世界の磁石生産量の90%以上(重量ベース)はフェライトマグネット

フェライトマグネットが実用的な磁石として量産されるようになったのは、1950年代以降、オランダのフィリップス社により、マグネトプランバイト型の結晶構造の新材料が開発されたことによるものです。MO・6Fe2O3という化学式で表され、MにBa(バリウム)イオンが入ったBaフェライトマグネットがまず開発され、その後、BaをSr(ストロンチウム)で置換したSrフェライトマグネットが実用化されました。
当時、マグネットの主役は鋳造磁石であるアルニコ磁石でした。“アルニコ”とは主成分の鉄に、アルミニウム、ニッケル、コバルトを加えた合金であることからの命名です。スピーカなどにも使われていましたが、レアメタル(希少金属)であるコバルトを10%前後から多いものでは30%以上も含んでいるため、高価なのが難点でした。1960年代になると初の希土類磁石であるサマリウム・コバルト磁石が開発されました。最大エネルギー積でアルニコ磁石をしのぎ、強力磁石の王座を占めましたが、レアメタルのコバルトに加えてレアアース(希土類元素)のサマリウムを原料とするため、アルニコ磁石以上に高価で、特殊な用途でしか使用できませんでした。そうした中で1970年代には、コバルトの主な生産地であるザイール(現・コンゴ民主共和国)で内乱が起き、コバルトが急騰するという事態が発生しました。マグネット市場を震撼させた“コバルトショック”です。
これをきっかけとして、金属系磁石よりも格段に安価なフェライトマグネットが、スピーカなどを中心に多用されるようになりました。現在、金額ベースではネオジム磁石を中心とする希土類磁石がトップシェアを占めていますが、重量ベースで世界の磁石の生産量の90%以上は依然としてフェライトマグネットです。これは今後も変わらないと推測されています。フェライトマグネットは酸化鉄を主成分とするため、原料供給の不安がなく、化学的にも安定で、環境にもやさしいからです。
マグネットの最大の用途はモータです。家電機器や産業機器のモータにはフェライトマグネットが利用されています。また、現代の自動車においては、パワーウィンドウやパワーミラーなど、フェライトマグネットを利用した数10〜100個以上の小型DCモータが使われています。フェライトマグネットの高性能化はモータの小型・軽量化をもたらし、社会全体で膨大な省エネ効果を生み出します。

2mm以下の薄肉化を実現したTDKの“NS1工法”

マグネトプランバイト型のフェライトは六方晶の結晶体で、C軸方向(底面に垂直な方向)が磁化容易方向となっています。成形工程で外部から磁界を加え、磁化容易方向をそろえることで、より強力なフェライトマグネットが製造できます。粉末状態で磁界を加えながら成形する工法を乾式法といい、フェライト粉末に水を混ぜてスラリー(泥状)にして、磁界を加えながら水抜きして成形する工法を湿式法といいます。フェライト粉末は水中では動きやすくなるので、スラリーにすることで外部磁界方向によくそろうのです。
湿式法による異方性Srフェライトマグネットは、KS鋼やMK鋼などの磁石鋼の特性をしのぎ、アルニコ磁石の領域にまで達するようになりました。また、微量元素の添加などにより、世界中でさまざまな材料組成が探索され、1990年代にはもはやフェライトマグネットの特性向上は限界に達したとまでいわれました。そうした中で、1997年、TDKではLa(ランタン)とCo(コバルト)をSrフェライトに含有させるという技術により、従来特性を大きく向上させた新材料FB9材を開発しました。
このFB9材の材料組成や微細高構造の最適化を図り、磁石特性をさらにきわめた新材料として、2007年より市場投入したのがFB12材です。FB9材と比較して最大エネルギー積を20%以上も向上させ、モータの小型軽量化に大きく貢献しています。また、フェライトマグネット特有の低温減磁の問題も改善し、-40℃〜+120℃の広い温度範囲で安定したパワーを維持するため、厳しい温度条件で使用される車載用小型モータなどに最適です。
フェライトマグネットは粉末原料を成形・焼成して製造されるセラミックスであるため、従来、3mm未満の薄肉化は困難でしたが、モータの小型・軽量化要求はとどまるところを知りません。そこで、TDKが開発したのが“NS1工法”と名づけた新技術。FB12材をベースに独自の高密度充填製法を導入し、厚みがわずか1〜2mmという高性能薄肉異方性フェライトマグネットを実現しました(FB13B材、FB14H材)。素材技術、成形技術、焼成技術の粋を結集した世界最高水準のフェライトマグネットです。

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