フェライト・ワールド

第13回 フェライトは無限の可能性を秘めた電子材料

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

技術の土壌で大きく育った“フェライトの樹”

フェライトは1930年代の日本で誕生した画期的な磁性材料。当初は無線通信機器やラジオのアンテナコイルのコア材料など、用途はごく限られていました。しかし、1950年代以降のエレクトロニクスの開花とともに、スーパーラジオの中間周波トランス用コア、テレビのブラウン管の偏向ヨークコアやフライバックトランス用コア、磁気テープ用磁性粉(半硬磁性フェライト)、スピーカやモータ用マグネット(硬磁性フェライト=ハードフェライト)などに用途を拡大して生産量は急上昇。金属磁性材料に比肩するセラミックスの磁性材料として、エレクトロニクスの発展を根底から支えてきました。
多種多様なフェライトの応用分野を樹形図として、わかりやすくまとめたのが“フェライトの樹”。その中から、今回はちょっと珍しいフェライトの応用例のいくつかをご紹介します。
フェライトの樹のコンピュータ分野に、メモリコア、バブルメモリというものがあります。1950年代の日本では、“パラメトロン”と名づけられた国産コンピュータが開発されましたが、そのメモリ素子に使われたのがフェライトです。メモリコアは、微細なリング状のフェライトコアをマトリクス状に配列して、読み書き用の信号線を貫通した記憶装置。信号線に電流が流れると、電流の磁気作用によってリングコアが磁化されますが、磁化の向きは電流方向によって反転するので、これを0か1のデジタル情報として利用します。磁化は半永久的に残るため、きわめて信頼性の高い不揮発性メモリとして、スペースシャトルに搭載されたコンピュータの記憶装置としても利用されました。
バブルメモリというのは、特殊なフェライトの薄膜を利用したもの。膜面に垂直に生成する円柱状磁区の磁化が、上向きか下向きかによってデジタル情報を記憶させます。バブルメモリ用磁性薄膜としては、スピネル型(トランスコアなどのソフトフェライト)、マグネトプランバイト型(フェライトマグネットなどのハードフェライト)とは別のガーネット型と呼ばれるフェライトが用いられます。ガーネット型フェライトは、通信機器において電波を逆流させずに、一方向に送るための回路部品であるサーキュレータやアイソレータなどにも使われています。

コピー機や電気分解でもフェライトが活躍

レーザープリンタなど、ゼログラフィを原理とするコピー機(PPC複写機)にもフェライトが面白い使われ方をしています。帯電させた感光ドラムに、レーザービームによって文書の文字や画像のイメージを露光すると、光が当たらなかった部分にのみ帯電が残ります。そこにトナー粉を静電気の作用で引きつけ、紙に転写・定着させるというのがゼログラフィの原理です。トナー粉を運ぶ役割をもつのがキャリアと呼ばれる微細なフェライトの顆粒。フェライトは磁性体であり、磁石に吸いつきます。そこで、トナー粉を帯びたフェライトキャリアをマグネットロールに吸いつかせ、静電気の作用で感光ドラムに付着させて現像するしくみです。
フェライトキャリアはスプレードライ法と呼ばれる製法によって製造されます。スラリー状(泥状)にした原料をスプレードライヤ装置によって霧化して、低温乾燥することで、粒度のそろった球状のフェライトキャリアが得られます。
さまざまな形状のフェライト製品をつくるための成形法もさまざまです。フェライトマグネットはスラリー状の材料を金型に注入し、磁界を加えながら加圧・脱水する湿式成形が主流ですが、トランスコアなどは顆粒状にしたフェライト材料を金型に充填して加圧する乾式成形が主流です。複雑な形状のトランスコアを成形するには、加圧の仕方にも高度なノウハウが求められます。
フェライト電極など細長い棒状やパイプ状のフェライト製品には、押し出し成形も利用されています。フェライト電極とは電気化学工業の電気分解などに使われる電極です。フェライトはセラミックスの一種であり、耐食性や強度にすぐれるため、高価な白金めっきチタンなどにかわって使われるようになりました。
フェライト電極は電気防食にも利用されています。鋼管杭や鋼矢板といった港湾の鉄構物は、海水中でボルタ電池と同様の局部電池作用が生じ、鉄がイオンとなって溶け出して腐食していきます。電気防食は鉄構物に生じる局部電池とは逆向きに微弱な電流を流すことにより腐食を防ぐ方法です。また、フェライト電極は主成分が酸化鉄なので、有害物質の溶出や二次公害の心配がないのもメリット。身近には電気温水器、アルカリイオン整水器などにも使われています。

環境保全にも貢献しているフェライト

廃水処理などの環境保全分野でもフェライトが活用されています。公害防止のため、工場などの廃水中の重金属イオンは厳しく規制されています。しかし、重金属イオンの種類によっては、通常の化学的処理では十分に除去できないものがあります。そこでフェライトの製造法をたくみに応用したのが、空気酸化フェライト化法と呼ばれる廃水処理技術です。
空気酸化フェライト化法は、もともと高性能な高周波用フェライト材料を得るために開発された共沈法と呼ばれる手法を応用したものです。フェライト材料の製法には、原料粉末を混合・焼成して得る乾式法のほか、溶液中でフェライトを析出する液相法があります。液相法における代表的な手法が共沈法です。まず、フェライトを構成する金属の塩を水溶液にして、イオンオーダーで混合します。この水溶液に強アルカリを加えると水酸化物などとなって沈殿するので、これを熱処理することで均質なスピネル型フェライトの粉体が得られます。これが共沈法ですが、水溶液中に重金属イオンが含まれていると、鉄イオンと置換されてフェライトに取り込まれます。これを利用したのがフェライト化処理法です。生成するフェライトは磁性体なので、磁石を利用した磁気分離機で容易に分離することができ、環境に有害な重金属イオンの処理法として、工場ばかりでなく、研究施設、大学などでも利用されています。
さまざまな金属イオンを取り込んで多種多様な固溶体をつくるのがスピネル型フェライトの特長です。フェライトが微量添加物によってさまざまな特性のものが得られるのも、鉄イオンが他の金属イオンと置換しやすいからです。
トランスコアなどには、スピネル型フェライトが利用されていますが、マグネトプランバイト型、ガーネット型など、フェライト・ファミリーの顔ぶれは多彩。それぞれの持ち味が生かされ、さまざまな分野で活躍しています。
遠い宇宙のかなたの惑星に、もし、知的生命が存在しているとしたら、われわれ地球人のようにフェライトを発明し、奇想天外な応用を考えついているかもしれません。ありふれた鉄酸化物を主成分としながら、フェライトは無限の可能性を秘めた電子材料だからです。

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