2019.07.18

TDK Front Line

Vol.6 IoT社会の発展に向けたウェアラブル生体センサの活用

国連の推計(世界人口推計、2019年)によれば、現在、約77億人といわれる世界人口は、2050年には100億人近くまで増加すると予測されています。平均寿命も延びていて、65歳以上の高齢者は2050年には16%に、また、日本国内では約38%に達すると予想されており(2019年版高齢社会白書)、少子化のため、その後も割合は増えるものと見られています。
このような未曽有の高齢化社会に向けて、健康増進やヘルスケアへの関心が世界的に高まっています。また、医療費の削減、介護サービスの人材不足といった問題を解消するために、センサ技術やIoT技術のヘルスケア分野への応用も積極的に進められています。

各種センサを活用した電子式のヘルスケア機器

物理的変化や化学的変化などを電気信号として出力するセンサは、ICや電子回路と相性が良く、体温、血圧、脈拍数といったバイタルサイン*の計測には、センサを搭載した電子式の機器が主流になっています。
*バイタルサイン:体温、血圧、心拍数、呼吸回数などの生体情報。
例えば、かつての水銀体温計にかわる電子体温計には、温度に敏感な半導体セラミックスであるNTCサーミスタという温度センサが利用されています。また、電子血圧計には音センサとしてのマイクロホン、スマートフォンなどに搭載されている歩数計には加速度センサが利用されています。

指先をはさむだけで脈拍数とともに血中酸素飽和度(SpO2)*も測定してくれるパルスオキシメータセンサは、便利なヘルスケア機器として病院や診療所(クリニック)ほか、家庭でも広く使われるようになっています。

 *血中酸素飽和度(SpO2):心臓から送られる動脈血中のヘモグロビンが、どれくらい酸素と結びついているかを示す割合。
 

ところで、血液採取をするわけでもないのに、血中酸素飽和度をどうやって知ることができるのでしょうか?
呼吸によって肺から吸収された酸素は、心臓の拍動により動脈を通じて抹消血管まで運ばれます。酸素の運搬の役割をになうのは、赤血球中のヘモグロビンです。血中酸素飽和度は、通常、97~100%の範囲ですが、90%以下となると息切れや呼吸困難の症状がみられ、ヘモグロビンの減少が推測されます。血中酸素飽和度は、隠れた病気の診断にも役立つ重要なバイタルサインなのです。

パルスオキシメータは、波長の異なるLED光(赤色光と赤外光)を指の表面から照射し、それを指の腹側の受光素子が検出して、吸光度の差から血中酸素飽和度を算出して表示します。心臓の拍動にともなって、動脈血の量も周期的に変動するので、脈拍数も同時に計測することができます。これが透過型光電方式のパルスオキシメータの基本原理です。
 

通信機能をもったリストバンド型生体センサ

歩数計はスマートフォンにも搭載されていますが、一日の歩数を計測するには常時携帯しておかねばなりません。また、ランニングなどに利用するには、重さが負担になります。
そこで、歩数などの活動量ほか、脈拍、体温などのバイタルサインをウェアラブルで自動計測するヘルスケア機器の需要が高まっています。
TDKが提供していますリストバンド型生体センサは、加速度センサ、脈拍センサ、皮膚温センサ、UV(紫外線)センサと、信号処理するマイコン、メモリ、Bluetooth通信用チップなどを一体化した多機能なウェアラブルデバイスです。

ただし、薄型化を実現するために、TDKのリストバンド型生体センサの脈拍数の検出には、パルスオキシメータと異なり、反射型光学方式が採用されており、脈拍センサが皮膚と接触する本体裏面に配置されています。
発光源であるLEDにより緑色光(波長550nm付近)を皮膚に照射し、皮下1~2mmの毛細血管で拡散反射して戻ってくる光量を受光素子であるフォトダイオードで計測します。
反射光の光量は皮下の毛細血管の血液量に相関して変化します。心臓の拍動にともなう毛細血管の拡張時には血液量が多く、ヘモグロビンに吸収される光も多くなり、結果として反射光は少なくなります。逆に毛細血管の収縮時には血液量が少ないので反射光は多くなります。これによって、脈拍を24時間リアルタイムで測定することができます。

病院や介護施設における遠隔モニタリングシステム

リストバンド型生体センサは、健康管理のためのヘルスケア機器としてのみならず、無線通信機能とゲートウェイデバイスを利用することで、医療・介護分野での遠隔モニタリングシステムとして活用することも可能です。

たとえば、病院の認知症患者などにリストバンド型生体センサを装着してもらい、病院内や敷地内の各所に、専用に開発した小型ゲートウェイ*を設置しておくと、クラウドを通じて装着者の生体情報や位置情報をほぼリアルタイムに遠隔モニタリングすることができます。大がかりな工事は不要で手軽に設置・移動できるのが利点。医療・介護サービスの質の向上とともに、スタッフの負担軽減にも役立ちます。
*ゲートウェイ:通信ネットワークを接続する中継点となる装置。

TDKのゲートウェイは、人感センサや環境センサ、加速度センサを搭載した取り付け型の装置で、介護施設の入居者の居室の天井などに設置して、ベッド上の入居者の動きなどをモニタリングすることができます。また、廊下などにも設置しておくことで、入居者が階段などの危険な場所に近づいた場合、施設などのスタッフのスマートフォンにすぐに知らせることもでき、スピーディな対応により入居者の安全な環境を確保できます。
 

物流・ロジスティクスの分野でもリストバンド型生体センサが活躍

リストバンド型生体センサは、医療・介護の分野ばかりでなく、物流・ロジスティクスや工場など、産業分野での応用も広がっています。
たとえば、物流業界では倉庫内でピッキングする作業員不足が深刻な問題となっています。また、人間の動きは複雑で個人差やクセがあり、無駄を生む要因にもなっています。そこで、ピッキング作業の効率化を図るため、作業者にリストバンド型生体センサを装着してもらい、搭載されている加速度センサのデータから、作業内容(台車移動、歩行、手作業、静止など)を推定して問題点を究明し、改善施策を探求するシステムも開発され、大幅な効率化を実現しています。

喜びやストレスなど、感情を“見える化”するシステムにも利用

リストバンド型生体センサを利用した感情分析システムの開発も進められています。装着者の心拍データをリアルタイムで収集・分析することで、“興奮・喜び”、“ストレス・イライラ”、“憂鬱・疲労”、“穏やか・リラックス”といった感情を分析し、専用アプリケーション上で、現在の感情や1日の感情履歴などを“見える化”して表示するシステムです。企業などでは従業員の隠れた感情疲労や心理的負荷の把握することで、適切な対応をスピーディに実施することも可能になります。

睡眠障害や自律神経バランスなど、メンタルヘルスでの活用にも期待

各種センサを用いた電子式のヘルスケア機器においては、ソフトウェアもきわめて重要な技術となります。TDKのリストバンド型生体センサは、睡眠時間や睡眠サイクルを自動的に計測することも可能です。
搭載した加速度センサで就寝時の体の動きを検出し、そのデータから独自のアルゴリズムで活動状態と睡眠状態を判別して、睡眠時間や睡眠サイクルを自動的に推定します。

自律神経のバランスや睡眠障害の解析など、メンタルヘルスの分野での活用にも期待されています。たとえば、長距離バスのドライバーなどの運転中の事故は、睡眠障害との関連が深いと指摘されています。しかし、睡眠の深さや質、リズムなどを客観的に把握することは難しく、睡眠障害の検査には大がかりな装置と入院検査が必要でした。

TDKの貼り付けタイプの生体センサにおいては、心電位、脈拍、体動量や姿勢、呼吸間隔、皮膚温といった複数の生体情報を同時に計測することが可能で、センサで得られた生体情報から、睡眠と覚醒の判別や、自律神経バランスや睡眠ステージを判定する独自のアルゴリズムも開発されていて、長距離バスの運転手などにおいては、業務前のコンディションを把握することで、運転中の事故の未然防止にも期待できます。

TDKは複数のセンサやソフトウェア/アルゴリズムなどを組み合わせた多彩なセンサフュージョンにより、世界No.1のセンサソリューション・プロバイダを目指しています。人にもモノにもやさしいIoT社会の実現に向け、生体センサを活用したソリューションを、さまざまな分野で展開してまいります。

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