2019.08.20

TDK Front Line

Vol.9 エネルギー革命に向けたリチウムポリマー電池の新たな展開

世界を一変させたリチウムイオン電池の発明

「ローマは一日にしてならず(Rome wasn’t built in a day.)」という格言があります。大きなことを成し遂げるには、それなりの歳月を要する意味ですが、同様に、どんなイノベーションもいきなり生まれるものではなく、先人が蓄積した技術を礎として生まれるものです。

2019年のノーベル化学賞は、画期的な二次電池*であるリチウムイオン電池(LIB)の開発に貢献した3人の研究者(米国のS・ウィッティンガム氏とJ・グッドイナフ氏、日本の吉野彰氏)に授与されました。
*二次電池:放電によって使い切りとなる一次電池に対して、繰り返し充放電可能な電池のこと。

リチウムイオン電池は、重量および体積エネルギー密度が高く、自己放電が少なくて長寿命など、きわめて優れた特長をもつ二次電池です。1991年に実用化されて以来、携帯電話やスマートフォン、ノートパソコンなど、モバイル機器の小型・軽量化と普及をもたらし、IT社会の発展に大きく貢献したことが受賞の理由となりました。

各種二次電池のエネルギー密度の比較を以下に示します。いかにリチウムイオン電池が、傑出した二次電池であることがわかります。

困難きわめたリチウムポリマー電池の開発経緯

リチウムは最も軽量な金属で、かつイオン化傾向も最も大きく反応性に富むため、これを電池に利用しようとする研究は早くから進められていました。従来の電池のように水溶液系の電解質を用いると爆発してしまうという問題をかえていましたが、非水溶液系の有機溶媒を電解質として利用することで、1971年、負極に金属リチウムを用いた使い切りのリチウム一次電池が開発されました。

次なる目標として世界中の研究者が目指したのは、リチウム二次電池の開発です。ところが、その開発には大きな壁が立ちはだかっていて、なかなか実用化には至りませんでした。
繰り返し充放電可能な二次電池を実現するには、電荷を運ぶリチウムイオンをできるだけ多く出入りさせたり、蓄えたりさせる電極材料として、全く新たな活物質*が必要だったのです。
*活物質:電池の化学反応に関与して電気エネルギーをつくりだす物質。

その突破口を開いたのは、S・ウィッティンガム氏で、1970年代、負極に金属リチウム、正極に二硫化チタンを用いたリチウム二次電池を開発しました。二硫化チタンは層状化合物で、層間にリチウムイオンを蓄えさせるというのがすぐれたアイデアでした。こうした層間化合物をインターカレーション物質*といいます。ただし、このリチウム二次電池は安定性に欠けて実用化には至りませんでした。
*インターカレーション:層状化合物の層間にイオンが出入りする現象のこと。

1980年、J・グッドイナフ氏は、層状化合物であるコバルト酸リチウムが、すぐれた正極材料となることを発表。しかし、充放電を繰り返すと、金属リチウムの負極にデンドライトと呼ばれる針状物質が析出・成長して、正極に達すると短絡してしまうという問題があり、これも実用化には至りませんでした。

そのころ、導電性高分子であるポリアセチレンを負極材料として用いるというアプローチから研究を進めていた日本の吉野彰氏は、グッドイナフ氏の論文を読んで、ポリアセチレンを負極活物質、コバルト酸リチウムを正極活物質とすることにより安定した二次電池を開発することに成功。その後、ポリアセチレンにかわりカーボン系材料(グラファイトなど)を用いることで、今日のリチウムイオン電池の原型が完成し、1991年には世界初のリチウムイオン電池が製品化されました。

リチウムイオン電池の基本構造を以下に示します。リチウムイオン電池は、正極材(正極活物質*と集電体)、負極材(負極活物質と集電体)、それらを隔てるセパレータおよび電解質などによって構成されます。

リチウムイオン電池のタイプと製法

リチウムイオン電池は、セル(単電池)の形状によって円筒型、角型、パウチ型(ラミネート型)などに分けられます。容量を高めるためには電極面積を大きくする必要があり、その製法として巻回工法と積層工法があります。

巻回工法は、活物質を両面に塗布した正極シートおよび負極シートと、それらを隔てるセパレータを重ねながら自動巻回機で巻き取ることで製造されます。
積層工法は、主にパウチ型に採用されている製法で、所定の大きさに切断した正極シートとセパレータと負極シートを順次積層していく工法です。

円筒型や角型はともに金属缶に入れられ、電解質を充填して封止されます。パウチ型(ラミネート型)は、金属缶ではなく、プラスチックフィルムをラミネートした金属ホイルで封止するタイプです。金属缶とくらべて薄型化と軽量化ができて形状自由性にも優れるのが特長です。

リチウムイオン電池の短所は、電解質に有機溶媒が使用されているため、液漏れすると発火のおそれがあることです。そこで、電解質にゲル状高分子(ポリマー)を用いて信頼性を高めたのが、リチウムポリマー電池(LPB、LiPo電池)です。

リチウムポリマー電池をパワーセル、ミニセルにも展開

TDKのグループ会社である香港のATL(Amperex Technology Limited)は、1999年の創立以来、パウチ型のリチウムポリマー電池を主力製品として、技術とノウハウを磨き上げてきました。スマートフォン用のリチウムポリマー電池市場において、ATLの製品は世界No.1のシェアを誇ります(2019年現在)。

従来、TDKがATLブランドで提供してきたリチウムポリマー電池は、主にスマートフォンなどのICT機器向けが中心でしたが、拡大する市場ニーズに応えて、ドローンやAGV(無人搬送車)、ロボットや電動バイクなどに向けた高容量タイプの“パワーセル”、またウェアラブル機器やIoTデバイス向けの“ミニセル”など、製品ラインアップの大幅な拡充を進めています。

以下に、巻回工法で製造されるパウチ型のパワーセルに求められる技術課題と、ATL独自の“マルチプル・タブ・ワインディング(MTW)”技術を中心に解説します。

独自の“マルチプル・タブ・ワインディング(MTW)”技術による高性能パワーセル

巻回工法によるパウチ型リチウムポリマー電池の構造例を以下に示します。円筒型とは異なり、扁平な渦巻き状に部材を巻き取って製造されます。

巻回工法によるリチウムポリマー電池では、正極シートと負極シートに電力を入出力するための“タブ”と呼ばれる接続端子が取り付けられます。小型のリチウムポリマー電池では、タブは正極と負極のそれぞれ1か所ですみますが、高容量化のために巻回数が多くなると、1か所のタブでは電流が集中して局部過熱状態になり、内部抵抗が増加して性能の劣化をもたらします。そこで、局部過熱を防ぐために複数のタブが正極シートと負極シートに取り付けられます。
複数のタブを取り付けて自動巻回するには、きわめて高度な技術が求められます。複数のタブは、外部の電極リードと接続するために巻回されたシート上の位置をそろえる必要がありますが、シートの巻回とともに一周に要するシート長がしだいに長くなるため、タブの取り付けピッチはそれに応じて変えていかねばならないからです。

ATLは蓄積した巻回技術をさらに磨き上げた独自の“マルチプル・タブ・ワインディング(MTW)”技術により、複数のタブの高精度な位置合わせを実現しました。そして、その技術を生かして、局部発熱による内部抵抗の増加を抑制した高信頼性のパワーセルを開発して提供しています。以下の図は、タブ数と局部発熱による温度分布を示したものです。タブが多くなるにつれ、全体の発熱が少なくなることがわかります。

フレキシブルな生産体制とスピーディな対応が強み

一般に、リチウムイオン電池は使用温度が高いほど劣化が促進されます。とりわけ入出力電流が大きいパワーセルにおいては、発熱による温度上昇が顕著になり、内部抵抗も増加していきます。これは容量低下や寿命短縮の原因となります。

スマートフォン用のリチウムポリマー電池の保証期間は数年程度ですが、産業機器などに向けたパワーセルにおいては5年以上の長期使用に耐える長寿命と高信頼性が求められます。そのキーテクノロジーとなるのが、ATLの“マルチプル・タブ・ワインディング(MTW)”技術です。局部発熱による温度上昇を抑制するとともに、直流抵抗の増加の抑制、サイクル特性の向上により、電池の長寿命化を実現します。
円筒型のリチウムイオン電池は、発熱が中心部に集中しやすく放熱特性が悪くなるため、大径化に限界があります。かたや扁平な渦巻き状で巻回するパウチ型リチウムポリマー電池は、薄型なので放熱特性にも優れます。このため、AGVやロボットなど、大きな入出力電流の産業機器向けの“パワーセル”に最適です。また、ドローンや電動バイク、さらには家庭用充電システムなどのESS(エナジーストレージシステム)など、さらには、ウェアラブル機器やIoTデバイスに向けた“ミニセル”など、多様な応用の道が開かれつつあります。
パウチ型に特化した先進のリチウムポリマー電池技術とフレキシブルな生産体制、そしてお客様へのスピーディな対応はATLのリチウムポリマー電池ならではの強みです。素材技術やBMS(バッテリ管理システム)など、TDKの技術とのシナジーにより、さらなる飛躍を目指します。

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