電気と磁気の?館

No.8 技術のルーツは知恵とアイデアでいっぱい

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

どんなものにもルーツがあるものです。現代のハイテクも突然に生まれたわけではなく、100年以上も前に発見された現象がルーツだったりします。身の回りの電気・電子機器は構造やしくみを知るだけにとどまらず、そのルーツをたどると科学技術の世界の面白さは倍増します。エレクトロニクス技術もまた、今からみればおもちゃのような実験装置から発展を遂げました。

携帯電話のメールのルーツは?

小・中学生は見たことも聞いたこともないかもしれませんが、携帯電話やPHSが普及する1990年代半ば頃まで、プライベートな通信手段として活躍していたのはポケベル(ポケットベル)です。ポケベルは単方向の無線通信機。固定電話からポケベルの番号へかけると、ポケベル内蔵のブザーまたは振動で、用件があることを知らせます。当初は単に相手を呼び出すだけでしたが、ほどなく小さな液晶ディスプレイに数字を表示できるようになり、この数字を文字がわりに利用して、4649→「よろしく」、88951→「早く来い」など、簡単なメッセージを送るのが女子高校生を中心にブームになりました。携帯メールは、このポケベルの数字送信機能がルーツです。数字2桁と50音の対照表などもつくられました。これは携帯メールにおいて、数字2桁でカナ入力する“ポケベル打ち(ポケベル入力)”として継承されています。

ポケットベル。液晶に表示される数字を文字がわりにメッセージを送ることが流行した。


 バイブレータの振動で着信を知らせる携帯電話のマナーモードも、ポケベルから受け継がれたもの。ブルブルという振動の発生にはモータが利用されていますが、モータはできるだけ振動をなくすように設計されているので、ただ回転させただけでは、このような振動は生まれません。そこで、重心をずらしたおもり(偏心おもり)をモータの軸に取り付けます。すると、おもりの重心は軸からずれたまま回転することになり、モータ本体が振り回されて振動します。洗濯機で洗濯物を脱水するとき、洗濯物が片方に寄っていたりすると、ガタガタと振動するのと同じ理屈です。
 携帯電話の小型・軽量化を図るため、バイブレータのモータにはコアレスモータと呼ばれる特殊なDCモータが使われています。おもちゃなどにも使われる一般的なDCモータは、積層鉄心のコアにコイルを巻いたものがロータ(回転子)となり、その周囲に磁界を供給する永久磁石を配した構造となっています。小さくてもズシリと重いのは、積層鉄心のコアによるもの。そこで積層鉄心をなくすことで小型・軽量化を図ったのがコアレスモータです。一般的なDCモータとは逆に、磁界を供給する円柱形磁石を内部に置き、その周囲にカップ型コイルを配した構造となっていて、カップ型コイルは固定された磁石のまわりを回転します。鉄心を省いたのでロータは軽く、起動特性にもすぐれます。

携帯電話のバイブレータ コアレスモータの構造

■ ベル(電鈴)のしくみを取り入れた誘導コイル(インダクションコイル)

 ポケットベルというのは日本での呼称(登録商標)。英語ではページャー(pager)といいます。「○○様、受付までお越しください」と呼びかけることを英語でページ(page)ということからです。ポケベルはアメリカではビーパー(beeper)とも呼ばれます。これは電子ブザーの電子音(ビープ音)からのネーミングです。携帯電話の着信音も当初はビープ音でしたが、同じような音では誰の携帯電話が鳴っているかわからず混乱するので、区別するために着メロや着うたが利用されるようになりました。しかし、着メロや着うたが氾濫すると、昔ながらの電話のベル音がかえって新鮮に聞こえるもの。そこで電子的なベル音を着信音として愛用している人も多いようです。
 ベル(電鈴)は電磁石を応用した機械的な発音装置です。おそらく電磁石の発明(1825年頃)からほどなく工夫・考案されたものでしょう。そのメカニズムの急所はバネで振動する電気接点にあります(図A)。電磁石のコイルに電流を流すと、電磁石の磁力によって鉄片は吸い寄せられ、バーがたわんでハンマーは鐘を打ちます。ところが、バーがたわむと接点が切れるので電磁石の磁力はなくなりバーは戻されます。すると再び接点が閉じて電磁石はバーをたわませ、ハンマーが鐘を打つというぐあい。原理はいたってわかりやすく、動きも面白いので、小学生の理科実験・工作としても適しています。

図A ペル(電鈴)のしくみ


 ベルのしくみは考案されてすぐに、さまざまな実験装置にも取り入れられました。その1つが電池から高電圧をつくりだす誘導コイル(インダクションコイル)です(図B)。交流の電圧変換はトランス(変圧器)によって容易に実現します。しかし、変圧器に流す電流は交流でなければなりません。19世紀前半はまだ交流電力がなかったため、直流から高圧を得るため誘導コイルが考案されたのです。
 誘導コイルという名からわかるように、これは電磁誘導を利用した装置です。巻数の少ない1次コイルと、巻数の多い2次コイルを同じ鉄心に巻いたものをつくり、1次コイルに直流電流を流します。流したままでは鉄心を貫く磁束は一定なので2次コイルには誘導起電力は発生しませんが、何らかのスイッチ機構で1次コイルに流れる電流をON/OFFすると、そのたびに磁束変化が起きて2次コイルに高圧が発生します。誘導コイルはこのスイッチ機構にベル(電鈴)と同じしくみを利用しています。

 

図B 誘導コイル(インダクションコイル)の原理と基本構造

 

■ 過去は未来の扉を開く鍵、技術ルーツにもっと関心を!

 ボルタ電池の発明(1799〜1800年)が電磁気学という分野を切り開いたように、誘導コイルの発明(1836〜1838年頃)はさまざまな物理現象の研究に大きく貢献しました。電磁波の存在を実証したヘルツの実験装置(1888年)も、誘導コイルによって電気火花を発生させ、それにともなう電磁波の伝播を確認する装置でした。誘導コイルはまた真空放電の研究にも欠かせないものになりました。電子の発見につながる真空放電管(ガイスラー管、プリュッカー管、クルックス管など)は、真空にしたガラス管の電極に誘導コイルからの高圧を加え、ガラス管内部に発生する放電を観察・実験する装置です。レントゲンによる初のX線装置(1895年)にも誘導コイルと真空放電管が用いられました。また、真空放電管の技術から生まれたのがブラウン管(1897年)や真空管(1904年)です。このように19世紀末〜20世紀初頭にかけてのエレクトロニクスの草創期に、誘導コイルの果たした役割は実に多大です。
 誘導コイルの発明者の1人はアメリカの技術者C・G・ページ(1812〜1868)です。ページは誘導コイルのほか、今日の実用的な発電機やモータのルーツともいうべき重要な発明も残しています。その1つは電磁エンジンともページ・モータとも呼ばれる装置です(1839年)。2つの電磁石の上に可動式鉄片を据え、電磁力による鉄片のシーソー運動をクランクなどで伝えて回転運動に変えています(図C)。このメカニズムは蒸気機関からヒントを得ているようで、いかにも19世紀的な発明です。

図C ページが考案した電磁エンジンの構造(模式図)


 交流発電機や交流モータ(インダクションモータ)の発明など、交流技術の開拓において偉大な業績を残したのはクロアチア生まれのテスラです。アメリカに渡ってエジソンのもとで研究していましたが、あくまで直流にこだわり交流技術を理解できないエジソンに愛想を尽かしてエジソン社を去ります。しかし、テスラの交流技術はウェスティングハウス社の認めるところとなり、ナイアガラ水力発電所に採用されて、交流の優位はゆるぎないものとなりました。テスラはまた2つのコイル間の磁束の共振現象を利用した高圧発生装置を考案しています。これはテスラ・コイル(テスラ変圧器)と呼ばれます(図D)。彼は今日の携帯電話のような無線通信機や、無線による地球規模の送電システムまで構想していたスケールの大きな発明家でした。

図D テスラ・コイル(テスラ変圧器)の基本回路


 ハイテクは一日にして成らず。どんな技術にもルーツがあるものです。身の回りの電気・電子機器はその構造やしくみを知るだけでなく、その技術ルーツに関心をもつことがとても大事です。「現在は過去の鍵」といいますが、過去は未来の扉を開く鍵でもあるからです。

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