電気と磁気の?館

No.19 電波のロータリーと一方通行

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

携帯電話にはマグネットとフェライトを組み合わせたアイソレータと呼ばれる高周波部品が使われています。アンテナから出される送信電波が回路に戻ってノイズを発生したり、誤動作などを起こすのを阻止するキーパーツです。アイソレータは無線通信はおろか電磁波の存在など知られていなかった19世紀半ば、光と磁気の関係を探求したファラデーの実験がルーツ。光のファラデー効果を電波に置き換えて応用したのが携帯電話のアイソレータなのです。

ワインの酒石酸から光学異性体が発見された

11月の第3木曜日と聞いてすぐにピンとくる人はかなりのワイン通。フランス・ブルゴーニュ南部のボジョレー産ワインの新酒いわゆる“ボジョレー・ヌーボー”の解禁日です。ワイン醸造と化学は古くから縁が深く、ワインに含まれる成分からさまざまな有機酸が発見されました。清涼飲料水などで酸味として添加される酒石酸もその1つ。酒石酸という名はワイン樽の底にたまる澱(おり=沈殿物)に含まれることに由来します。
 酒石酸は光学異性体の発見をもたらした物質です。ある種の物質は旋光性という性質をもちます。自然光は進行方向に対して上下左右さまざまな角度の振動面をもちますが、ある1平面内にのみ振動する光のことを直線偏光といいます。この直線偏光の光を物質中に通過させると偏光面の角度が回転するという性質が旋光性です。なかには分子式や構造式が同じながら右回りの旋光性(右旋性)と左回りの旋光性(左旋性)のものがあり、これを光学異性体といいます。分子の立体配置が左右の手のような鏡像関係にあると、右旋性と左旋性の違いとなって現れるのです。
 光学異性体はフランスの化学者パスツールにより、酒石酸において初めて発見されました(1848年)。当時、ワインに含まれるブドウ酸は、酒石酸とは別の物質と考えられていました。というのも、酒石酸は右旋性をもちますがブドウ酸は旋光性をもたないからです。パスツールはブドウ酸塩の結晶を顕微鏡で観察すると、結晶の形に2タイプがあることに気づきました。そこで顕微鏡をのぞきながら丹念に結晶をより分け、それぞれの水溶液の旋光性を調べてみると、両者は右旋性と左旋性とにはっきりと分かれ、右旋性の物質は従来の酒石酸そのものであることが明らかにされました。ブドウ酸は旋光性が左右逆の酒石酸の混合物(ラセミ体=光学異性体)であるため旋光性を示さなかったのです。

 

■ 磁気光学を切り拓いたファラデー効果(ファラデー回転)

 物質の旋光性は電磁気学にも新領域を開拓しました。1831年に電磁誘導現象を発見したファラデーは、磁気は光とも関わりをもつのではないかと考えるようになり、さまざまな実験を試みました。ファラデー効果と呼ばれる現象が発見されたのは1845年のこと。電磁石で磁界を加えた鉛ガラスに、直線偏光の光を通過させたところ不可解な現象が現れたのです。
 酒石酸にみられるような左旋性・右旋性という旋光性は自然旋光性といいます。自然旋光性においては、直線偏光の光を透過させて偏光面を回転させたあと鏡で反射させると、戻り光は逆方向に回転するため、偏光面は元の状態に戻ります。ところが、鉛ガラスに磁界を加えるというファラデーの実験では、透過光も反射光も同じ方向に偏光面が回転し、2倍の回転角となって戻ってきます。ファラデーは鉛ガラスにかぎらず、他の透明物質でも同じ現象が起こることを明らかにし、磁気と光は相互作用することを確信したのです。
 偏光面を回転させるため、ファラデー効果はファラデー回転とも呼ばれます。たとえば偏光面が+45°回転する物質においては、戻り光も+45°回転するため、偏光面は往復で+90°回転することになります。これを利用したのが光アイソレータと呼ばれる電子部品で、+90°回転した戻り光を偏光子によって遮断します。光アイソレータは半導体レーザ装置や光ファイバの伝送路などにおいて、反射の戻り光によるノイズや回路の誤動作防止などのために使われています。
 

自然旋光性

 

ファラデー効果
ファラデー効果

 

■ 無線通信機器で活躍するサーキュレータとアイソレータ

 よく知られているように光も電波も電磁波の1種です。透明物質を通過する光にファラデー効果が現れるように、磁性体であるフェライトを通過する電波にもファラデー効果が現れます。これを利用したのが電波の伝送路を循環させるサーキュレータと呼ばれる高周波部品です。
 サーキュレータは3つの端子をもち、入射した電波は、端子(1)→(2)、端子(2)→(3)、端子(3)→(1)と順方向に伝送しますが、逆方向には伝送しません。ちょうど駅前のロータリーのように一方向に循環させるのです。このサーキュレータの端子の1つに抵抗を結合するとアイソレータとなります。電波は端子(1)→(2)とスムーズに伝送されたあと、逆方向から伝送される電波は端子(2)→(3)と誘導され、接続された抵抗により熱として変換してしまいます。
 アイソレータは携帯電話などの無線通信システムにおいて不可欠の電子部品です。パワーアンプからアンテナへと送り出される送信電波の一部は、アンテナ側で反射してパワーアンプへと戻ってきますが、これを阻止するのがアイソレータの役割です。図に示すのはマグネット、フェライト、ループ状の3つの電極(コイル)、コンデンサなどからなる小型電子部品タイプのアイソレータです。マグネットによって磁界が加えられたフェライトがファラデー回転子の役目を果たします。
 TDKでは高特性マグネットと独自開発の高周波フェライト(YIG)の組み合わせにより、数mm角の小型アイソレータを実現、携帯電話のキーパーツとして活躍しています。また近年、光回線やADSLなど利用が困難な地域、いわゆる“ラストワンマイル”を接続する高速無線通信システムとしてWiMAXが注目されています。きたるべきユビキタス時代に向けて、TDKではWiMAX基地局用サーキュレータも新開発しました。基板上でフレキシブルなパターン配置が可能なSMD(表面実装部品)タイプです。

 

サーキュレータとアイソレータの機能

 

携帯電話などに使用されるTDKの小型アイソレータの構造

 

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