電気と磁気の?館

No.27 アイデアに満ちた録音機の技術

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

何もかもデジタル記録される時代ですが、アナログにはアナログの良さとともに、ユニークな新技術のヒントが潜んでいるものです。そこで、レコード、テープレコーダ、そして映画のサウンドトラックなど、アナログ時代の音声記録の技術史を振り返ってみました。

エジソンが発明したのは電気を利用しない機械式録音機

自動車が通ると曲が聞こえる“メロディロード(歌う道路)”というのをご存知でしょうか? 坂道やカーブなどでは滑り止めのため、道路に浅い溝が刻まれたりします。こうした溝の間隔や幅を調整して音符のように配列すると、タイヤとの接触音によってメロディを奏でるというしくみです。制限速度を超えると調子っぱずれになるのでスピード違反の防止になるほか、居眠り運転の防止にも効果的。観光PRを兼ねて、ご当地ソングをメロディに採用するなど、このところ各地でつくられて話題になっています。
 エジソンが発明した録音機(1877年)は、このメロディロードと同じような原理です。スズ箔を巻いた円筒を回転させ、そこに音声を伝える針を接触させると、針の振動によってスズ箔に溝が刻まれていきます。再生はこれとは逆の手順。刻まれた溝を針でなぞりながら円筒を回転させると針先の振動が音声として聞こえます。円筒ではかさばるので、のちに円盤に渦巻き状の溝を刻む方式が採用されました。これがレコード盤のルーツです。
 昔のレコードプレーヤは音声を“蓄える”という意味から、蓄音機と呼ばれました。当初は手回し式で再生音も小さいため、メガホンのような拡声器に耳を近づけなければ聞けないというしろものでした。のちにモータ駆動のターンテーブル、針の振動を電気信号に変換するピックアップ、真空管アンプ(増幅器)なども備え、スピーカでも聞けるようになりました。これは“電蓄(電気蓄音機)”と呼ばれました。
 レコードプレーヤのピックアップには電磁誘導を利用したムービングマグネット(MM)型、ムービングコイル(MC)型など各種あり、普及機には圧電気を利用したクリスタルピックアップが用いられました。ステレオレコードは溝の左右の側面に、2チャンネルの音声信号を記録するしくみです。そのうち左右のタイヤが別々の音を奏でるステレオ方式のメロディロードというのも登場するかもしれません。
 

メロディロード(歌う道路)

 

ステレオレコードとクリスタルピックアップのしくみ

 

■ 映画のサウンドトラックはどうやってつくる?

 レコードとまったく原理が異なる磁気記録方式の録音機を考案したのは、デンマークのポールセンです(1898年)。ポールセンの最初の録音機は円筒に鋼線を巻いた装置で、鋼線をはさむようにヘッドが据えられています。ヘッドは軟鉄のコアにコイルを巻いた電磁石です。コイルに音声信号を乗せた電流を流しながら円筒を回転させると、コアから出る磁束が鋼線を次々と磁化していきます。再生はこれと逆のしくみで、円筒を回転すると磁化された鋼線の磁束の変化により、ヘッドのコイルに電流が流れます。この電流をコイルと振動板からなる受話器に送って音声を再生します。ポールセンの録音機には電話機の技術が取り入れられています。それもそのはず、ポールセンは電話技師で、彼の鋼線式録音機は電話の会話を録音するために考案されたからです。
 ポールセンの鋼線式録音機は1900年のパリ万博で金賞を受賞。これに勢いを得て、ポールセンはこの録音機を改良して事業化に乗り出しました。しかし、まもなくレコードの全盛時代を迎えたため普及するにはいたらず、磁気録音はいったん技術史の中に埋もれてしまいました。
 1920年代になると、それまでサイレントだった映画が、音声の出るトーキーに変わっていきました。映画ではフィルムに画像とともに現像できる光学的な録音方式が開発されました。図に示すのは可変面積型と呼ばれる光学録音方式。音声の電気信号によって反射鏡を変動させると、スリットを通る光の幅が変化するので、波のような独特のパターンがフィルムに露光されます。これがサウンドトラックです。再生はサウンドトラックを通過する光量の変化を光電管が電気信号に変換、これを増幅してスピーカを鳴らします。波のようなパターンではなく、濃淡の縞模様で記録する方式のサウンドトラックもありました。

ポールセンの鋼線式磁気録音機(テレグラフォン)

 

映画フィルムのサウンドトラックの基本原理(可変面積型の光学録音)

■ 大容量データライブラリなどでは高信頼性の磁気テープが活躍

 ポールセンの発明後、半ば忘れられていた磁気録音がドイツで復活したのは1930年前後。鋼線にかわって磁性粉を塗布した紙テープが記録媒体として用いられました。これがテープレコーダの始まりです。テープレコーダが世界的に普及するのは第2次大戦後です。日本でも1950年にソニー(当時の社名は東京通信工業)が初の国産テープレコーダを製作し、ほどなくTDK(当時の社名は東京電気化学工業)も磁気テープの生産を開始しました。1960年代になるとカセットテープレコーダも登場します。しかし、当時の磁気テープの性能は不十分で、音声は何とか録音できても、音楽の録音には向いていませんでした。
 そこで、蓄積した磁性材料技術を駆使、磁気テープ用の新たな磁性体を開発して、高品質の音楽録音を実現したのが、世界初のHiFi(ハイファイ)オーディオカセットテープであるTDKのSDカセットテープ(1968年)。1970年代には、針状結晶のマグヘマイト(γFe2O3)の表面にコバルトを吸着させた画期的な“アビリン”磁性体を開発。高性能カセットテープやビデオテープに用いられ、TDKの磁気テープは、その名を世界に轟かせました。
 デジタル時代を迎えて、カセットテープはCDやMDにかわり、録音機もシリコン半導体をメモリとしたICレコーダが多くなりました。また、テレビ録画もVTR(ビデオテープレコーダ)からHDD内蔵のDVDプレーヤが主流となりました。とはいえ磁気テープは今なお重要な記録媒体として使われています。なかでも大容量のデータライブラリやバックアップ用などで活躍しているのは、“LTO Ultrium(ウルトリウム)”という規格のカセットテープ。12.65mm幅のテープに約700のデータトラックをもち、 VHSテープの半分ほどの大きさで数100ギガバイトという大容量を誇ります。データの書き込み・読み出しの信頼性が高く、コストパフォーマンスにすぐれるのが磁気テープの利点。めまぐるしく飛び交い、あふれる情報を、最終的に管理・保存しているのは磁気テープなのです。

 

テープレコーダの録音・再生の基本原理

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