電気と磁気の?館

No.31 モバイル・ミュージックとスピーカ技術

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

コンパクトな本体に数百〜数千曲もの楽曲を収納する携帯デジタルオーディオ。その脇役ながら、なくてはならないのがイヤホン。以前とくらべて格段に高品質なサウンドを再生するのは、小さくてもハイパワーな磁石が利用されているからです。

電磁ブザーはバスレフ型スピーカと同じしくみ

オーディオスピーカのキャビネットの前面に、トンネルのような穴(ダクト)をもつものがあります。これはバスレフ型と呼ばれるスピーカシステム。穴のない密閉型とくらべて低音域が充実し、迫力あるサウンドが再生されます。
 バスレフ型スピーカのしくみは、19世紀ドイツの科学者ヘルムホルツが考案した“ヘルムホルツ共鳴器”で説明されます。たとえば同じ高さの音でも楽器によって音色が違うのは、基本となる周波数のほかに、その整数倍のさまざまな倍音が含まれているからです。ヘルムホルツはそれを実証するために、ヘルムホルツ共鳴器と呼ばれる器具を考案しました。これは球形〜円筒形のガラス管の両側に穴を設けたもので、片側の穴から音を取り入れ、もう1つの小さな穴から出る音を耳で聞きとると、ガラス管の長さや形に応じて、ある高さの音だけが特に大きく響きます。これによって、それぞれの楽器特有の音色をつくる倍音を聞き分けたのです。
 ヘルムホルツ共鳴は物理的には広く空洞共鳴(空洞共振)と呼ばれる現象です。口をすぼめて頬を手で叩くと、鼓(つづみ)のような音を立てるのも、ヘルムホルツ共鳴によるもので、口のすぼめ方によって音の高さも変化します。バスレフ型では比較的小さなスピーカでも低音域が増強されるように、キャビネットの容積やダクトの面積・長さが設計されます。
 携帯電話などで着信音などを鳴らす小型電磁ブザーは、バスレフ型スピーカと似た内部構造をもっています。磁石とコイルを利用して振動板を振動させるのが基本のしくみですが、それだけでは大きな音(音圧)は得られません。そこで空洞部と放音孔を設け、空洞共鳴により大きな音を得るように工夫されています。

ヘルムホルツ共鳴器

 

バスレフ型スピーカシステムのしくみ

 

小型電磁ブザーとその内部構造

 

■ ベルの電話機から生まれたマグネチックスピーカ

 そもそもスピーカは、いつどのような目的で開発されたものなのでしょうか? スピーカのルーツは電話機です。初の実用的電話機は1876年にベルによって発明されました。これは磁石とコイル、鉄の振動板からなる装置です(当初は送受兼用)。音声が鉄製の振動板を振るわせると、磁石から出る磁束が変化し、電磁誘導によりコイルに電流が流れます。この電流が受話器側のコイルに送られると、磁石に吸引されている振動板を振るわせ、音声を再生するというしくみです。原理的にも構造的にもきわめて簡単な装置です。
 ベルは電気工学者ではなく、聴覚障害者の教育に力を尽くした生理学者・教育者でした。電話機の発明も、耳の鼓膜の研究をしているうちに、鉄板を人工鼓膜のように振るわせれば、音声を電気的に伝達できるのではないかと考えたのがきっかけといわれます。当時、音声を電気信号に変換するには複雑なしくみが必要と考えられていたようで、このような簡単な装置で音声が伝達できるとは、多くの科学者や電気工学者にとって思いも寄りませんでした。もしベルが電気工学のプロだったら、かえって発明できなかったかもしれないともいわれました。ベルの電話機は偉大な発明であるとともに、画期的な発見でもあったのです。
 1920年代にラジオ放送が始まると、複数の人が同時に聴けるような音響変換装置としてスピーカが開発されました。当初のスピーカはマグネチックスピーカと呼ばれるタイプです。ベルの電話機と基本的に同じしくみですが、可動鉄片の振動をコーン紙と呼ばれるラッパ型の紙製振動板に伝えるところなどに、新たな工夫が盛り込まれています。

ベルの電話機(送受兼用)

 

マグネチックスピーカ

 

■ モバイル・ミュージックにハイパワー磁石が貢献

 ベルの電話機が細長い形状をしているのは、棒磁石が用いられているからです。マグネチックスピーカも棒磁石を曲げたU字型磁石が使われました。今日のスピーカの主流であるダイナミックスピーカが開発されたのは1923年。磁石の磁力によって鉄板を振動させるのではなく、コイルが発生する磁束と磁石との相互作用により、コイルに接合したコーン紙を振動させるムービングコイル(ボイスコイルともいう)方式です。当初は電磁石が使われていましたが、1930年代以降には強力な永久磁石(アルニコ磁石など)を利用したパーマネント・ダイナミックスピーカが開発されたことにより、スピーカはかなりコンパクトなものとなりました。
 アルニコ磁石はすぐれた金属磁石ですが、鉄・アルミニウムのほか、高価なコバルトやニッケルを成分とする合金です。このため、酸化鉄を主成分とする安価なフェライト磁石の開発とともに、オーディオスピーカにはフェライト磁石が多用されるようになりました。
 1960年代以降に、強力な希土類磁石(サマリウム・コバルト磁石、ネオジム磁石)が開発されると、イヤホンの小型・高性能化も急速に進みました。かつてイヤホンといえば、クリスタルイヤホンやセラミックイヤホンが主流でした。これはロッシェル塩や圧電セラミックスの薄板を信号電圧によって振動させる方式で、安価ですが高音質は望めません。
 今日、iPodをはじめとする携帯デジタルオーディオプレーヤで使用されるイヤホン(インナーイヤー型)は、ダイナミックスピーカと同じ構造のイヤホンです。耳穴におさまる小さなサイズながら、迫力あるサウンドが楽しめるようになったのも、強力な磁気パワーをもつ希土類磁石の採用によるものです。スピーカはモータとともに永久磁石の二大用途。スピーカの発展を促し、ヘッドホン、イヤホンの小型・高性能化をもたらしたのは磁石技術です。

 

ダイナミックスピーカの構造

 

ダイナミック式イヤホン(インナーイヤー型)の構造

 

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