電気と磁気の?館

No.41 HDDの大容量化・小型化を実現した磁気ヘッド技術

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

ホームサーバはホームネットワークの中核機器

パソコンや周辺機器ばかりでなく、テレビやHDD/DVDレコーダ、ビデオカメラ、デジタルカメラ、オーディオ機器といったAV家電を、無線LANによってワイヤレスで結ぶホームネットワークの実用化も進んでいます。このホームネットワークを集中的に管理・制御する機器となるのが、大容量HDDを搭載したホームサーバ。動画や写真、音楽などのデータが増えていくと、パソコンに搭載されたHDDでは容量不足になりますが、大容量HDDを搭載したホームサーバなら気にすることもなくデータを保存しておけます。記憶容量がT(テラ)バイト(1000Gバイト)級のホームサーバも、手頃な価格で購入できるようになりました。 Tバイトというのは新聞情報なら約3000年分(1年で約333Mバイトとして計算)、1Mバイトのデジタル写真なら100万枚が保存できる記憶容量です。
 ホームネットワークが構築されると、データを家族全員で共有でき、それぞれのパソコンからワイヤレスでアクセスして利用できるようになります。また、インターネットを通じて外出先からホームサーバにアクセスすることも可能。これからはエアコン、冷蔵庫などの家電、そして家庭用ロボットなどとも連携して、ますます便利なものになっていくでしょう。
 高速回転する磁気ディスクを、スイングアームが走査して磁気記録・再生するのがHDDの原理です。この20年間においてHDDはめざましい大容量化と小型化を成し遂げました。これはHDDヘッド技術の数々のブレイクスルーにより、驚異的な高記録密度化が進んだことによるものです。
 HDDヘッドは半導体製造を上回るほどの高度な薄膜プロセス技術によって製造されます。多数のヘッド素子をウェハにまとめて薄膜形成し、それらをチップ状に切断したものをスライダといいます(スライダ端面がヘッド素子部)。このスライダをサスペンションに取り付けたものをHGA(ヘッドジンバルアセンブリ)といい、これに駆動コイルなどを取り付けたものをHSA(ヘッドスタックアセンブリ)といいます。TDKはウェハ生産からHGA、HSAの組み立てまでを一貫して手がけるHDDヘッドの世界トップメーカーです。

これからのホームネットワークのイメージ

 

■ 世界に先駆けて実用化したTDKの垂直・TMRヘッド

 磁気記録は、1898年にデンマークのポールセンが考案した鋼線式磁気録音機に始まります(本シリーズ第27回で紹介)。これはリング型(C字型)のコアにコイルを巻いたヘッドにより、鋼線に磁気記録する方式です。テープレコーダやビデオテープレコーダのヘッドも基本的に同じ構造で、リング型ヘッドのすきま(ヘッドギャップ)から出る磁束によってメディアに磁気記録します。
 HDDでは円盤状の磁気ディスクをメディアとして用います。1956年にIBM社によって開発された世界初のHDD(IBM305“RAMAC”)は、24インチ(約60cm)の磁気ディスクが50枚も重ねられた巨大装置でした。しかし、その記憶容量はわずか5Mバイト。3.5インチフロッピーディスク(2HD、1.44Mバイト)4枚ほどの容量にすぎませんでした。
 磁気記録の記録密度はヘッドによって左右されます。太い筆よりも細い筆のほうが小さな字が書けて、より多くの情報が記録できるように、ヘッドギャップが狭いほど、より高密度な磁気記録が可能です。しかし、従来の磁気ヘッドはフェライトやセンダストなどの磁性材料を加工してつくられたため、ヘッドギャップを狭くすることには工法的に限界がありました。大容量化を図るには、ディスク径を大きくするか、ディスク枚数を増やすしかなかったのです。
 こうした問題をクリアしてHDDのブレイクスルーをもたらしたのが薄膜磁気ヘッドです。フォトリソグラフィやエッチングなどの薄膜プロセス技術により、多層薄膜の中にヘッド素子を立体的に形成していく工法で、きわめて高密度な記録が可能になりました。さらに1990年以降には、MRヘッドやGMRヘッドという新タイプの薄膜ヘッドの開発により、HDDは半導体のムーアの法則(チップ上のトランジスタの集積度が約2年間で倍増するという経験則)に匹敵するような猛スピードで高記録密度化が進行しました。
 また、従来の水平(長手)記録方式の限界を超える高記録密度化を実現したのが、TDKが世界に先駆けて実用化したPMR(垂直磁気記録)ヘッドです。高感度な再生ヘッドであるTMRヘッドと組み合わせた垂直・TMRヘッドは、HDDのさらなる大容量化・小型化を可能にしました。

HDDの高記録密度化をもたらしたヘッド技術の変遷

 

■ レーザの近接場光を利用した次世代の熱アシスト記録技術

 HDDの面記録密度は、bit/in2(ビット/平方インチ)という単位で表されます。HDDヘッドの数々の技術革新により、面記録密度は数百G(ギガ) bit/in2に達するまでになりました。 しかし、1000G =1T(テラ)bit/in2という大台を目指すには新たなブレイクスルーが求められます。そこでTDKがチャレンジしているのが熱アシスト記録技術です。
 HDDの磁気記録は、記録層(磁性層)に形成された微細な磁石の磁化の向きで、0か1かのデジタル情報を記録します。 PMR(垂直磁気記録)方式では、記録ビットはディスク面に垂直にぎっしりと並び、保磁力によって磁化の向きを保ちます。ところが、面記録密度が高まると記録ビットが小さくなり、その熱安定性を保つために保持力を大きくしなければならず、記録ヘッドの書き込み能力がしだいに不足するようになります。
 この問題を解決するのが熱アシスト記録技術です。記録ビットの保磁力は温度上昇とともに弱まります。そこで、レーザ光によって記録ビットを加熱し、保磁力が弱まった瞬間に、記録ヘッドから出る磁束で記録していくという方式です。とはいえ記録ビットはレーザ光の波長以下のサイズなので、レンズで絞りこむようなオプティカルな方法では、これほど微細なスポットはつくれません。そこで近接場光(きんせつばこう)という技術が導入されます。
 レーザ光が飛び出す開口部を波長以下に小さくしていくと、やがてレーザ光は外へ飛び出さなくなります。しかし、開口部のサイズや形状を工夫すると、レーザ光は開口部にまとわりつくような微細スポット(幅50nm程度)となります。これを近接場光といいます。この近接場光による加熱と、記録ヘッドによる書き込みを高速で繰り返すことにより、1Tbit/in2を超える超高記録密度を実現するのが熱アシスト記録技術です。
 近接場光の発生素子をつくるためには、ナノメートルオーダーの高度な微細加工技術が要求されますが、ここにもHDDヘッドで培ったTDKの薄膜プロセス技術が生かされています。また、熱アシストヘッドの実用化には、それに応じた磁気メディアも必要です。TDKでは次世代大容量HDDの実現に向け、ディスクリートトラックメディア、ビットパターンドメディアといった新たな磁気メディア技術の確立にも果敢にチャレンジしています。
 

次世代HDDのための熱アシスト記録技術

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