電気と磁気の?館

No.61 冷蔵庫のルーツと冷凍技術の進展

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

日本初の人造氷の恩恵にあずかった福沢諭吉

酷暑の候を迎える旧暦6月1日は、昔、宮中では山中の氷室(ひむろ)が開かれ、ワラなどを断熱材として保存しておいた天然氷が下賜されました。これを“氷の朔日(ついたち)”とか“氷室の節供(せっく)”といいます。『枕草子』に、「あてなる(優美・上品な)もの。…削り氷にあまづら(甘葛)入れて、あたらしき金鋺(かなまり)に入れたる」とあるように、かき氷は平安時代の宮中でも賞味されていたのです。ちなみに、あまづらとはアマチャヅルなどから得られる天然の甘味料のことです。
 富士山の山麓には、観光スポットにもなっている風穴(ふうけつ)とか氷穴(ひょうけつ)と呼ばれる溶岩洞窟があります。夏でもひんやりと涼しいことから、江戸時代には氷室として利用され、保存しておいた天然氷がはるばる江戸城に運ばれて将軍に献上されていました。
 人造氷を製造する技術的な挑戦は、近世ヨーロッパで始まりました。打ち水をすると涼しくなるのは、水が蒸発するときに地面から熱(気化熱)を奪うからです。空気ポンプで低圧にすると、容器の中の水は蒸発しやすくなり、ついには氷点下にまで冷却されます。この方法による製氷は、18世紀に実験的ながら成功しています。
 電気冷蔵庫のルーツともいえる機械式の製氷機(冷凍機)は、1834年にアメリカの発明家パーキンスによって考案されました。これは、エーテルなどの揮発性の液体を冷媒としたもの。空気ポンプ(手押し)で減圧して冷媒を蒸発させたとき、周囲から気化熱を奪って冷却するしくみです。気化した冷媒は、ポンプで加圧されて冷却コイルに送られて液化し、再び蒸発器に戻ります。ガス圧縮方式と呼ばれるこのしくみは、今日の冷蔵庫でも変わりありません。
 アンモニアを冷媒とする製氷機は、日本には明治初頭に渡来しています。明治3年の夏に福沢諭吉が熱病にかかったとき、大学東校(東京大学の前身)の教授が使い方をマスターし、これを慶応義塾の塾生に伝授して、熱さまし用に製氷したのが日本の人造氷の始まりといわれます。
 明治半ばになると、製氷工場も各地に建設され、夏でも氷が入手できるようになりました。電気冷蔵庫が普及する以前は、氷冷蔵庫などと呼ばれるものが使われました。上下に2つの扉のついた木製の保冷ボックスのようなもので、上部の棚に大きなブロック氷を置いておくと、氷によって冷やされた空気が降下して、入れておいたサイダーやビールなどが冷やされるというしくみです。
 

 

 

■ コンプレッサのパワー制御で省電力化を実現したインバータ冷蔵庫

 冷蔵庫がうなり音を発するのは、モータでコンプレッサ(圧縮器)を駆動しているからです。コンプレッサの役割は冷媒ガスを圧縮すること。コンプレッサで高温・高圧となった冷媒ガスは、凝縮器(コンデンサ)と呼ばれるくねくねと曲がったパイプに送られ、ここで熱を放出して液化します。冷蔵庫の背面が熱を発するのは、凝縮器の放熱によるものです。温度を下げて液化した冷媒は、キャピラリチューブと呼ばれる細いパイプを通じて、庫内のエバポレータ(蒸発器)に送られます。ここで、圧力が急に下げられるため、冷媒は気化して周囲から熱を奪って庫内を冷却し、ガスとなった冷媒は、再びコンプレッサへと送られるというしくみです。つまり、冷媒は液体→気体→液体→気体…と繰り返すことで庫内を冷却します。これを冷凍サイクルといいます。
 冷蔵庫の冷媒として、かつてはフロンが使われていましたが、フロンは地球大気のオゾン層を破壊することから、代替フロンが使われるようになりました。しかし、代替フロンの多くも温室効果が大きいため、現在はイソブタンやシクロペンタンなどの炭化水素が使われるようになっています。
 冷蔵庫は、家庭の消費電力でエアコンに次いで大きな割合を占めています。しかも、エアコンと違って、冷蔵庫は365日24時間稼動しているので、さまざまな省電力対策が投入されています。なかでも、画期的なイノベーションとなったのは、1990年代に登場したインバータ冷蔵庫です。
 コンプレッサ用モータの回転数は、交流電源の周波数(50Hz/60Hz)に依存します。このため、従来の冷蔵庫のコンプレッサは、一定の回転数と同じパワーでしか駆動できませんでした。しかし、インバータ方式では、商用交流をいったん直流に変換してから、可変周波数(あるいは可変電圧)の交流に変換できるので、モータの回転数を自在にコントロールすることが可能になります。
 たとえば、冬季は冷やしすぎにならないように回転数を下げてローパワー運転をしたり、ドアを開けて、庫内温度が上がったときなどは、ハイパワー運転で一気に冷却してから、回転数を落とすなど、温度センサなどの情報をもとに、きめ細かなパワーコントロールで省電力効果を高めています。温度センサほか、コンプレッサのモータやファンモータのマグネット、インバータ回路のトランス、セラミックコンデンサ、チョークコイルなど、冷蔵庫にはさまざまなTDKの製品が活躍しています。



 

■ 冷蔵庫の冷凍サイクルに似たLNGの冷熱利用

 現在、日本の電力の30%近くはLNG(液化天然ガス。主成分はメタン)による火力発電によって生産されています。LNGの利用は冷蔵庫の冷凍サイクルと似たところがあります。まず、海外の産出国で天然ガスは冷却しながら圧縮して液化します。これは冷蔵庫のコンプレッサ(凝縮器)に相当します。液化されたLNGはタンカーで輸送され、国内のLNG基地で再ガス化して燃料として利用しますが、このとき冷蔵庫のエバポレータと同様に周囲から気化熱を奪います。これを冷熱といいます。その量は膨大になるので、外界に放出するのはもったいない話です。LNG基地に、液体窒素や液体酸素、ドライアイス、冷凍食品などの製造工場が多数隣接しているのは、LNGを再ガス化するときの冷熱を利用しているからです。
 冷媒もモータなどもない“電子冷蔵庫”とでも呼ぶべきタイプの冷蔵庫があります。P型半導体とN型半導体をつないで電流を流すと、片側で発熱、別の片側で吸熱作用が生じることを利用したもの(ペルティエ効果)。パワーは小さいものの機構がシンプルで、モータ音などを発しないため、ホテルや病院の小型冷蔵庫として使われています。
 液体ヘリウムを極低温まで冷却するには、磁性体を利用した磁気冷凍という技術が使われています。磁性体というのは微小磁石の集合体とみなすことができます。通常、磁性体は向きがバラバラの無秩序状態となっていますが、外部から磁界を加えると、微小磁石が磁石の磁界方向にそろいます。微小磁石が整然とそろったところで外部磁界を除去すると、磁性体は無秩序状態に戻りますが、このときに周囲から熱を奪います。これを断熱消磁といいます。奪う熱量はわずかなものですが、これを繰り返すことで、極低温まで冷却が可能になるのです。
 絶対零度(0K=−273℃)に近い超低温の実現には、さらに核断熱消磁という手法が用いられます。物質の磁性は、主に電子のスピン(自転運動)と軌道運動によるものですが、一部は原子核の磁気モーメントも関与します。強力な外部磁界を用いて、この核磁気モーメントの向きもそろえることで、絶対零度に近い極低温が実現します。

 

 

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