電気と磁気の?館

No.79 薄膜のパフォーマンスとアルミ電解コンデンサ

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

「錆をもって錆を制する」考え方から生まれたステンレス鋼

世界遺産に登録されているインド・デリー市郊外の「デリーのクトゥブ・ミナールとその建造物群」内には、5世紀初めに建造された高さ約7mほどの「デリーの鉄柱」が保存されています。風雨にさらされる屋外にありながら、なぜか錆(さび)が発生しないことが、古くから謎とされてきた鉄柱です。
 20世紀初めに鉄柱の組成を調べたところ、きわめて高純度の鉄ながら、リン(P)の含有量が、通常の鉄よりも異常に高いことが判明しました。建造以来、1500年以上も錆が発生しなかったのは、乾燥気候も関係しますが、この高濃度のリンによるものと説明されています。鍛造過程で表面にリン酸化合物の皮膜が形成され、それが腐食を防ぐコーティングとして機能しているというのです。
 ステンレス鋼が錆びないのも、これと似たしくみによるものです。ステンレス鋼は、鉄にクロム(Cr)などを含有させた合金です。鉄は放置しておくと表面に錆が発生しますが、クロムはピカピカとした金属光沢を保ちます。クロムは錆びにくいわけではありません。むしろ、鉄よりも錆びやすく、表面に薄い酸化膜を形成するため、これが保護膜となって内部への酸化の進行を阻止するのです。つまり、ステンレス鋼は錆びないというより、錆をもって錆を制しているわけです。このような表面の酸化膜を「不動態皮膜」といいます。たとえ表面に傷がついても、すぐに含有するクロムが不動態化するので腐食することがないのです。クロムのほかにニッケルを加えることで、加工性や耐酸性が向上します。たとえば、食器などに使われる18-8ステンレスは、クロム18%、ニッケル8%を含むことを表します。
 ステンレス鋼の誕生のきっかけの1つとなったのも「デリーの鉄柱」です。18世紀以降、「デリーの鉄柱」はヨーロッパでも広く知られることになり、その謎を解けば、錆びない鋼が実現できると考え、各国の学者たちによって精力的に研究が進められました。こうして19世紀末から20世紀初めにかけて開発されたのがステンレス鋼です。

 

■ アルミニウムは身の回りのアルマイト製品ほか電子部品でも活躍

 酸化しやすいアルミニウムが鍋やヤカン、窓のサッシなどに用いられるのも、不動態皮膜の巧みな応用によるものです。アルミニウムを陽極として電気分解すると、アルミニウム表面に酸化アルミニウムの不動態皮膜が形成されます(陽極酸化処理)。ただし、この不動態被膜は中空の六角柱を束ねたような多孔質膜です。そこで、耐食性を高めるために、高温高圧の蒸気や薬品処理などにより孔をふさぎます(封孔処理)。こうして製造されるのが各種のアルマイト製品です。赤や青などのカラフルなアルマイト製品は、着色液に浸してから孔をふさぐことなどの処理により製造されます。なお、アルマイトとは、もともとは1931年に理化学研究所が商標登録した名称ですが、今日では電気分解による陽極酸化処理や、それによって製造される製品などの総称となっています。
 一方、アルミニウムは電子部品でも活躍しています。電磁気学の確立に多大な貢献をしたファラデーは、電気化学の分野でも、さまざまな業績を残し、1830年の電磁誘導の発見に続き、1833年には「ファラデーの電気分解の法則」を発見しています。アノード(陽極)、カソード(陰極)、アニオン(陰イオン)、カチオン(陽イオン)といった電気分解に関する一連の用語はファラデーによる命名です。
 電気化学の実験からスタートした電気分解は、発電機が実用化した19世紀半ばすぎには工業的にも利用されるようになり、アルミニウムの電解精錬も行われるようになりました。電気分解は当時の先端技術だったのです。こうした時代背景のもとで、19世紀末にはアルミ電解コンデンサも発明されました。  
 コンデンサは1対の電極で誘電体(絶縁体)をはさんだ構造の素子です。誘電体にマイカ(雲母)を用いたものはマイカコンデンサ、誘電体セラミックスを用いたものはセラミックコンデンサと呼ばれます。しかし、アルミ電解コンデンサの場合、コンデンサとしての原理は同じでも、製法は大きく異なります。電解コンデンサというネーミングは、電気分解(電解)を利用して製造されることによるものです。
 

 

■ アルミ電解コンデンサの大容量はどこから生まれるのか

 アルミ電解コンデンサは大容量コンデンサの主流として、今日もなお電子機器の電源回路などで多用されています。アルミ電解コンデンサならではの大容量は、アルミニウムの酸化膜のパフォーマンス。薄膜エレクトロニクス技術の先駆ともいうべき、なかなかの大発明です。 
 アルミ電解コンデンサの電極には高純度のアルミ箔が用いられます。まず、電気化学的なエッチング処理によってアルミ箔の表面を粗面化します。コンデンサの静電容量は、電極面積に比例します。エッチング処理で粗面化することにより、電極の実効表面積は数10倍〜100倍以上にまで高めることができるのです。
 次に、粗面化したアルミ箔(陽極)の表面に電気分解によって酸化膜をつくります(これを化成という)。コンデンサの静電容量は誘電体の厚みに反比例します。酸化膜はナノメートルオーダーのきわめて薄い薄膜なので、大きな静電容量が得られるのです。
 こうして処理された陽極と陰極のアルミ箔の間に、ショート防止用のセパレータ紙をはさんでロール状に巻き取り、電解液に含浸させてケースに格納・封止したのがアルミ電解コンデンサです。電解液は陰極の延長としての役割を果たします。電解液は液体なので粗面化した陽極の凹部まで浸透し、陽極と陰極を薄い酸化膜を隔てて密着させたのと同等の効果が得られるのです。
 アルミ電解コンデンサは、リード線タイプやプリント基板に表面実装できるSMDタイプほか、工業用として、ネジ端子型アルミ電解コンデンサという大容量タイプも利用されています。太陽光/風力発電システムなどにおいても、大容量のアルミ電解コンデンサは欠かせません。TDKでは各種アルミ電解コンデンサを豊富にラインアップ(EPCOSブランドで提供)、積層セラミックチップコンデンサなどの電子部品とともにエレクトロニクス社会の発展を支えています。

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