電気と磁気の?館

No.82 エレクトロニクス&エネルギー分野で活躍する磁性材料

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

フェライトはTDKの磁性材料技術の原点

科学分野での業績を表彰する賞として、最古の歴史をもつのは、1731年にイギリス王立協会が創設したコプリ賞(コプリ・メダル)です。物理学と生物学を対象としたもので、第1回(1731年)と第2回(1732年)は、電気の伝導現象を発見したイギリスのグレイが連続受賞しています。
 それまで、摩擦電気による帯電や放電は知られていましたが、電気が物質の中を流体のように移動することが、グレイの実験によって初めて明らかにされたのです。グレイはまた、物質は電気を伝える導体(金属など)と、電気を伝えない絶縁体(ガラス、絹など)に分けられることも発見しました。エルステッド、ファラデー、オームなど、電磁気学を築いた名だたる科学者らもコプリ賞の受賞者。近年ではブラックホールの研究で有名なホーキングも受賞しています(2006年)。  
 現代社会を支えるのは、さまざまな工業技術ですが、コプリ賞もノーベル賞も、工学分野は対象となっていません。そこで、2012年、工学分野のノーベル賞ともいうべき「クイーンエリザベス工学賞」が、イギリス王立工学アカデミーによって創設されました(2013年から授賞開始)。
 電気・電子技術分野のノーベル賞に相当するのは、この分野における世界最大の学会であるIEEE(アイトリプルイー:電気・電子技術者協会)の“IEEEマイルストーン”です。創設されたのは1983年ですが、電池の発明者ボルタ、電話の発明者ベルなど、過去の歴史的偉業も認定されています。2009年には、東京工業大学とTDKによる「フェライトの発明とその工業化」が、世界で89番目、日本では、八木・宇田アンテナ、富士山レーダーなどに続く10番目のIEEEマイルストーンとして認定されました。フェライトは1930年、東京工業大学の加藤与五郎博士と武井武博士よって発明された画期的な磁性材料。その工業化を目的として、1935年に設立されたのがTDKです(当時の社名は東京電気化学工業)。TDKが磁性材料技術を得意とするのも、フェライトを原点とする長年にわたる技術・ノウハウの蓄積があるからです。エレクトロニクスはもとより、エネルギー関連分野でも、TDKの磁性材料技術が活躍しています。


 

 

■ 高周波用のトランスやアンテナコイルのコアにフェライトが使われる理由

 コイルに向けて磁石を動かすと、電磁誘導によりコイルに起電力が発生して電流が流れます。このとき、電流が発生する磁束は、磁石の磁束変化を妨げるような向きに発生します。
 金属板に向けて磁石を動かしても、同様の現象が起こります。金属板に渦電流という渦状の電流が流れ、それによって磁石の磁束を妨げるような反作用磁束が生まれるのです。渦電流が流れると、金属の電気抵抗によりジュール熱が発生します。これを誘導加熱といいます。磁石を素早く動かすほど、発生するジュール熱も大きくなります。電磁調理器はこの誘導加熱を原理とするもので、商用交流(50/60Hz)をいったん直流に変換してから、インバータで約20kHzの高周波電流にして、これを加熱コイルに送って高周波の磁束を発生させています。  
 渦電流は内部まで浸透せず、表面近くに分布します。これを表皮効果といい、周波数が高くなるほど浸透の深さは浅くなります。表皮効果をたくみに生かしたのが高周波焼き入れです。鋼製品は約800℃以上に加熱してから急冷すると、組織に変化が起きて硬度が増します。これを焼き入れといいます。高周波焼き入れは、電磁調理器と同じ原理によるもので、高周波磁界が生む渦電流のジュール熱で鋼製品を焼き入れする工法です。表皮効果によって、表面の硬度は増すものの、内部は粘りを保つため、曲げても折れないしなやかさが得られます。
 電磁調理器や高周波焼き入れは、渦電流による発熱を積極的に利用したものですが、トランスのコアにおいては、発熱はエネルギー損失となります。そこで、高周波用トランスのコアなどとして多用されるのがフェライトです。フェライトは、酸化鉄を主成分とする粉末材料を成型・焼成して得られる磁性セラミックスです。電気抵抗が高く、渦電流による熱損失は金属よりも、格段に小さいため、高周波用トランスコアなどに不可欠な材料となっているのです。信号電流に混入する高周波ノイズを除去するEMC対策部品にもフェライトが活躍しています。
 


 


■ モバイル機器のワイヤレス給電をサポートする磁性材料

 モバイル機器のバッテリ充電方式として、接続コードや接続端子などを必要としないワイヤレス給電(非接触給電)が注目を集めています。すでに、ワイヤレス給電に関する国際標準団体であるWPC(Wireless Power Consortium)のQi(チー)規格に対応したスマートフォンも発売されています。また、置くだけでワイヤレス給電できる充電台も開発されていて、レストラン、カフェ、空港ラウンジなどに設置されるようになっています。モバイル機器の多機能化・高機能化により、消費電力は増大する一方で、いつでも、どこでも手軽に充電できるワイヤレス給電に期待が寄せられているからです。
 Qi規格は電磁誘導を原理とするもので、充電台に内蔵された給電コイルが送る高周波の磁束を、モバイル端末に内蔵された受電コイルで受け取ってバッテリを充電します。TDKでは先進の磁性材料技術などを駆使し、Qi規格に準拠したワイヤレス給電用コイルユニットを開発しました。とりわけ、受信コイルは業界最高クラスの超薄型化を達成したのが大きな特長で、これにより、モバイル端末本体の設計変更なしで、バッテリパックの変更だけでワイヤレス給電を可能にします。
 受電コイルには、すぐれた磁気シールドも求められます。受電コイルの内蔵場所は、スマートフォンなどではバッテリパックと本体裏の蓋の間あたりが想定されます。この場合、給電コイルから送られてくる高周波の磁束が、バッテリパックの金属面に到達すると、渦電流が発生して正常なワイヤレス給電ができなくなったり、異常発熱を起こしてしまうおそれもあります。TDKでは、高飽和磁束密度の磁性シートの採用により、すぐれた磁気シールド効果を実現して、この問題も解決しています。
 


 

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