テクの雑学

第89回 力で電気を生み出す仕掛け −身の周りにある圧電効果−

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

今年1月から3月まで、JR東日本が実施中の「発電床」の実証実験が話題になっています。人が歩く力を電気に変換して利用するものですが。その原理になっている「圧電効果」と「逆圧電効果」は、すでに日常生活のさまざまな場面で利用されています。
 

押すと電気が発生する?

圧電効果とは、水晶や特定の種類のセラミックなどに圧力を加えることで生じるひずみに応じて、電圧が発生する現象をいいます。1880年に、ノーベル物理学賞受賞者のピエール・キュリーと兄のジャック・キュリーが発見しました。

 圧電効果を利用した身近なものとしては、ライターの着火石が挙げられます。圧力を加えて10000ボルト程度の高い電圧を発生することで、火花を発生させ、ガスに着火します。

 なぜ、固体に圧力をかけると電気が発生するのでしょうか。その理由は、固体結晶内のイオンの配置にあります。格子状の結晶の中に配置されたイオンの位置のずれが、圧力を加えることによって大きくなり、結晶の一方の端がプラスの電気を帯び、もう一方の端がマイナスの電気を帯びる「電気分極」という現象が起こり、電圧が発生するのです。

電気分極の原理


 また、圧電効果を発生する水晶やセラミックに電圧をかけると、結晶が変形します。これを、逆圧電効果とよびます。逆圧電効果は、圧電効果が発見された翌年の1981年、リップマンにより熱力学の法則から数学的に導かれ、キュリー兄弟により実験的に確認されました。

 逆圧電効果が最初に応用されたのは、潜水艦用のソナー(音波探知機)です。水中に超音波を放射し、その反射で障害物を探知するソナーは、1912年のタイタニック号沈没事故以後研究が進められてきました。1917年、第一次世界大戦中に、フランスのランジュヴァンが、水晶を鋼の電極で挟んで電圧をかけることで、十分に高い周波数の超音波を発生する「ランジュヴァン型振動子」を考案し、広く普及しました。

■ とても単純な圧電素子の構造

 圧電効果を利用して電気を取り出したり、逆に電圧をかけることで振動を取り出す電子部品が、「圧電素子」です。「ピエゾ素子」と呼ばれることもありますが、これは、ギリシャ語のpiezein(押す)に由来しています。

 圧電素子の基本的な構造は、圧電材料を電極で挟むだけの単純なものです。

圧電素子の構造


 構造が単純で、電圧を加えるだけで機械的な動作なしに微細な動きや振動が発生するため、丈夫で小型化も容易であり、精密機械の部品としてすぐれています。クォーツ時計の水晶振動子や超音波診断装置、携帯電話用小型スピーカ、ハードディスク読み取り装置、水槽内に置いた振動子の超音波の高速な振動で細かな蒸気を発生する超音波加湿器など、さまざまな製品に圧電素子が使われています。

 

■ 時給自足の発電技術

 JR東日本などが現在実証実験を進めている「発電床」は、直径3センチ程度の圧電素子を床に敷き詰めて保護材をかぶせ、その上を人が歩く時に生じる床の振動を電気に変換するものです。

発電床の仕組み

※JR東日本の報道発表資料を参考に作成


 第1回の実証実験は、2006年10月から12月にかけて行われ、発電量は1日最大約10キロワット秒(100ワットの電球を100秒間点灯させられる電力量)に達しました。しかし、3週目からは耐久性の低下により、発電量が低下することが判明し、圧電素子の耐久性の向上と発電効率の向上が課題とされました。

 2008年1月から3月にかけて実施されている実証実験で使用している「発電床」は、前回使用したものよりも圧電素子の密度を高めて発電効率を高め、また保護材(ゴムマット)を工夫して耐久性を向上しています。今回の実験では、単位設置面積あたり、前回の10倍の発電効率を目標にしています。具体的には、1人の通過で1ワット秒、1日トータルで500キロワット秒の発電量を目標としており、将来的には「発電床」による発電で、自動改札や自動券売機などの消費電力の一部をまかなう電源として利用したい意向です。

 軍事技術からはじまって私たちの日常生活に欠かせない部品に進化したテクノロジーが、今、利用者の力で必要な電気を作り出す、省エネルギー技術として見直されているのです。

※「発電床」は、株式会社音力発電様の商標登録出願中です。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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