テクの雑学

第94回 あなたはどのタイプがお好み? −パソコン用キーボード−

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

パソコンは、ソフトウエアしだいでさまざまな用途に使える、たいへん便利な機械です。それをより便利に、そして快適に使うための「入力装置」も、実にさまざまなものが考案され、実用化されてきました。
 今回は、そのうち、キーボードのことについてお話ししたいと思います。
 

キーボードの基本動作

パソコン用キーボードとは、それぞれのキーに割り当てられた信号を、タイプされた順にパソコン本体へ送信する装置、ということができます。つまり、キーひとつひとつが信号をON/OFFするスイッチで、通常の状態ではOFF、押し下げた状態でONを表わします。
 それぞれのキーに割り当てる信号の座標は、通常「行」と「列」で構成されることから、「キーボードマトリクス」と呼ばれます。Aのキーを押した時に、そのマトリクスを読み取り、パソコン本体へ「Aのキーが押されました」という信号を送信するのは「キーボードマイコン」の役割です。
 この動作を円滑に行なうと同時に、快適なタイピングを実現するため、キーボードには実にさまざまな工夫が盛り込まれています。たとえばキートップ自体の配置と形状、キートップを保持する機構などによって、キーボードの使い心地は大きく変わります。また、信号をON/OFFするための「スイッチ」と、キーのストローク(キーを押し下げ/押し戻す動き)を司る「ばね(スプリング)機構」も、非常に重要な構成要素になります。
 今回は、そのスイッチとばねに注目してみましょう。
 

■ 「メンブレンスイッチ」と「ラバーカップ」


 現在、市販されているパソコン用キーボードは、ほとんどが「メンブレンスイッチ」と「ラバーカップ」を組み合わせた構造を採用しています。
 メンブレンスイッチとは、フィルム上にマトリクスの回路パターンを印刷したシートによるスイッチです。さまざまな構造がありますが、基本は接点と接点の間に絶縁体をはさみ、ある程度以上に押し下げられた状態になると接点同士が接触して電気が流れ、スイッチがONになる、というものです。
 キーボード用の回路は、非常に多くのスイッチによって構成されています。たとえば、デスクトップパソコン用日本語キーボードで現在最もポピュラーなタイプでは、109個ものキー、すなわちスイッチを持っています。
 メンブレンスイッチは印刷で作れるため、数多くのスイッチを持たなければならないキーボード用回路を作る上で、たいへん都合がいいのです。つまり、製造コストの点で有利になります。
 

 ラバーカップは、ゴムでできたドーム状のばねです。通常はキートップをイニシャル位置に保持し、押し下げられた状態から再びイニシャル位置へ復帰させる役割を果たしています。また、キーを押し下げて行く過程の感触、いわゆるタイプ感を大きく左右します。
 ばね機構に関しては、ラバー以外に金属ばねを併用することで、タイプ感などを向上させているものもあります。また、ストロークが小さくなりがちなノートパソコン用キーボードでは、ストローク中にキートップがぐらつくことを防ぐ目的で、パンタグラフなどの補助ガイド機構を併用していることも珍しくありません。

 

■ メカニカルタイプ

 最近はめっきり減ってしまいましたが、初期のパソコン用キーボードでポピュラーだったのが「メカニカルタイプ」と呼ばれるスイッチ機構です。その名の通り、金属製の接点が機械的に接触する方式のスイッチですが、これにもさまざまな構造があります。
 メンブレンスイッチが基本的に「底付き」した状態でONになるのに対し、メカニカルタイプは接点の位置や接触する際の感触を任意に設定しやすいため、ばね機構との組み合わせでタイピング感を細かく調整しやすいのが利点です。接点が金属ですから、フィルムであるメンブレンスイッチより高い耐久性を保ちやすい利点もあります。
 その代わり、回路上にキーの数だけスイッチを設けなければならないことや、構造上、金属ばねとの組み合わせが主流で、製造工程が複雑化することなどから、どうしてもコストが高くなってしまうのが弱点です。接点が接触する際にカチカチ音が出やすいことも、人によってはうるさく感じられてしまうかもしれません。

■ 静電容量式

 メンブレンスイッチやメカニカルスイッチは、接点同士が物理的に接触することで通電する「接触型」のスイッチです。これに対して「非接触型」と呼ばれるスイッチもあります。パソコン用キーボードに採用されているものの代表は「静電容量式」と呼ばれるスイッチです。
 静電容量とは、金属が持っている電力を保持する力で、他の物体が近付くことで変化します。この性質を利用したスイッチが静電容量式です。つまり、キーを押し下げることで変化する電荷を検出し、しきい値を超えたらON、と判断するわけです。キーボード用に使われるものは、円錐形のばね形状を持つ「コニックリング」が主流で、線間の距離の変化による電荷の変動を利用しています。
 静電容量式スイッチは、機械的な構造が比較的簡素で、電荷のしきい値設定によってスイッチONのタイミングを調整しやすい、接触部分を持たないためタイプ音が静かにできるといったメリットを持っていますが、電荷の変動を検出する回路を搭載しなければならないことでコスト高になりやすく、現状の採用例は非常に少なくなっています。

■ 試してみよう

 昨今はパソコンも「ブラウザ」としての役割が大きくなり、キーボードの出来はあまり重視されなくなってきた感がありますが、仕事や勉強のためにパソコンを使う人なら、キー入力の頻度は意外と高いものです。
 そんな場合、キーボードのタイピング感は、パソコンの使用感を大きく左右する要因となります。身体を動かして行なう操作のための道具という意味では、靴などと同じ、といえば、その重要さが理解できるでしょう。
 パソコンに付属してきたキーボードをそのまま使っている人が多いと思いますが、タイプの機会が多い人は、ぜひ他のキーボードも試してみていただきたいところです。
 自分の感性にぴったり合った感触のキーボードを使うと、入力効率が高まるだけでなく、長時間の入力でも疲れにくくなりますし、入力中のストレスが軽減される分、思考そのものがクリアになる効果にも期待できます。

 ひと昔前は、メカニカルスイッチ式キーボードのタイプ感が持てはやされていましたが、キータッチの善し悪しには、人それぞれの好みが大きく影響します。また、技術の進歩によって、メンブレンスイッチでも上質なタイプ感を実現した製品も少なくありません。「方式」や「構造」だけで判断せず、実際に使ってしっくりくるものを選んで下さい。きっと、パソコンを使うことがもっと楽しくなるはずです。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」(ナツメ社)など

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