テクの雑学

第99回 正しい記録には、最初と終わりが肝心! −陸上と競泳の計時を助ける仕組み−

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

まさに夏真っ盛りの今、4年に1度の夏季オリンピックが開催中です。北京では多くのアスリート達が、猛暑の中、熱い戦いを繰り広げています。さて、オリンピックと切ってもきれないのが「記録」。中でも、陸上トラック競技や競泳など、速度を競う競技では、スタートとゴールの瞬間を正確に把握するのがとても重要です。今回のテクの雑学では、オリンピックの計時をスタートとゴールで支える仕組みについてみてみましょう。

最初は人の目で測っていたスタートとゴール

第1回近代オリンピックは、1896年にアテネで開催されました。このときの計時にはストップウォッチが使われていましたが、公式記録は、人の目視による1秒単位の計時でした。1920年のアントワープ大会で、はじめて1/100単位で計時できるストップウォッチが公式計時に採用され、同大会から機械による1/5秒単位のタイムが公式記録となりました。

 ストップウォッチの進歩につれて公式記録の単位も細分化され、1932年のロサンゼルス大会では1/10秒単位のタイムが公式記録となりました。1952年には電子計時が導入され、1972年のミュンヘンオリンピックからは1/1000秒単位まで計時精度が上がったことに対応して、公式記録も1/100秒単位となりました。ちなみに、1/1000秒単位の記録の扱いは、陸上と競泳で異なり、陸上の場合は切り上げ(トラック競技の場合。ロード競技の場合は1秒未満切り上げ)、競泳の場合は切り捨てとなります。

 ストップウォッチを手動で操作すると、どうしても反応速度による遅れや誤差が入ります。そのため、過去には、10人が同時にストップウォッチを操作して平均値をとるといった操作もされていました。現在の競技場では、正確にスタートにあわせて計時を開始し、ゴールの瞬間のタイムを正確に見極めるためのさまざまな仕掛けが使われています。
 

■ 1/100を検知するスターティングブロック

 ピストルの音を合図にいっせいに選手がスタートを切る陸上競技。スタートの引き金に連動して、自動的にタイマーが作動します。このとき、同時にスタート信号を受信して作動するのが、選手の足元にあるスターティングブロックです。スタート時に選手がブロックを蹴る圧力を感知するのですが、スタート信号から1/100秒以内にスタートを検知した場合は、「人間には生理的にありえない速さでの反応だから、合図よりも先にスタートしていたはず」としてフライングと判定されます。

スターティングブロック

 ところが最近、この「1/100秒」を見直そうという動きがあります。フィンランドのユヴァスキュラ大学の石川昌紀主任研究員によるスタート時の反応速度実験によると、被験者となった25人の選手のうち、6人が1/100秒未満で反応したというのです。

 選手たちは、記録を伸ばすために、「スタートの反応を短くする」ための練習をつんでいます。スタート音を検知し、大脳から発した信号が足に達するまでには1/100秒は最低かかるというのがこのルールの根拠だったのですが、日々の訓練により、大脳を経由せずに反応できるような信号の伝達経路が確立されている可能性が研究者から指摘されています。

 普通の人間の常識では考えられないようなことでも、努力によってアスリートは人間の限界を超えたのかもしれません。選手の努力がきちんと記録に反映されるように、必要であればルールも見直して欲しいですね。

■ 最新の写真判定は細い連続写真

 陸上競技のゴールは、長い間写真判定が使われていましたが、現在はフィニッシュライン上の幅1センチの隙間からからビデオを撮影する「スリットビデオ」で1秒間に2000枚の写真を撮影し、それを順番につなぎ合わせることでゴールラインを超えた順番とタイムが正確に判別できるようになっています。

 

スリットビデオのしくみ


 元になっている細い写真には、撮影時刻が1/2000秒単位で記録されているので、つなぎ合わされた写真の選手の胴の部分をクリックすることで、タイムがわかります。

■ 選手が自分でタイマーを止める、タッチ板

 水中でタイムを競う競泳では、「タッチ板」の仕組みが計時に使われています。タッチ板がオリンピックで導入されたのは1968年のメキシコ大会からです。それ以前は、24人の計時員がストップウォッチを持って各レーンに3人ずつつき、タイムを測定していました。

 しかし横から写真を撮影できる陸上競技と異なり、水中でプールの壁にタッチするタイミングを正確に捉えるのは困難です。そこで、選手が自分でタイマーをとめることができる仕組みとして、タッチ板が導入されたのです。

 スタート時は、陸上と同様スタートの合図と同時にタイマーが作動します。ゴール時は、選手がプールの中に設置された「タッチ板」にタッチすることでタイマーが停止し、タイムが確定します。


 

タッチ板

 フライングの判定は、スタート台に設置された装置で飛び込み時の圧力を感知します(背泳の場合は水中のタッチ板で感知)。また、リレーの引継ぎも、タッチ板で検知するタッチの時刻と、飛び込み台の圧力がかかった時刻で、正しく行われているか確認します。

 絶え間ない努力で人並みはずれた記録を生み出すアスリートたちは、私たちに大きな感動を与えてくれます。その背後で、さまざまな新しい技術が生まれています。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

PAGE TOP