テクの雑学

第105回 通信用だけじゃない −光を届ける光ファイバー−

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

光ファイバーといえば、高速な情報通信のインフラとしていまや社会に欠かせない存在です。一方で、忘れられがちですが重要なのが、「光を届ける媒体」としての光ファイバーの役割です。今回のテクの雑学では、光ファイバーのもうひとつの側面に光をあててみましょう。

光ファイバーが光を届ける仕組み

光ファイバーが生まれたきっかけは、「物体を用いて光を思い通りのところに導く」というアイデアでした。光を導く媒体としてガラス繊維を使うことで、実際に画像が送れることを実験的に確認したのは、ドイツの医学生ラムで、1930年のことです。ラムは、これを応用して胃の内視鏡を作れば、胃の中を自由に観察できるというアイデアを出しました。これが、現在のファイバースコープの元になるアイデアです。1957年、ミシガン大学のハーショヴィッツにより、ファイバースコープの試作品がアメリカの胃鏡学会で発表されました。

 より効率よく光を導くための構造として、1958年に、現在の光ファイバーの原型となる、クラッドとコアの2層構造による石英グラスファイバーがアメリカのカバニーによって開発されました。

■ 光ファイバーによる通信を可能にした日本の発明

 最初に発明された光ファイバーのシンプルな方式(ステップ型光ファイバー)では、光の入射角度によって光の通る道筋(経路)が異なるため、光の伝播速度に違いが生じてしまうという欠点がありました(上図の赤い線で表した光と青い線で表した光)。この点を改善したのが、東北大学の西澤潤一教授(当時)が発明した「自己集束型光ファイバー」です。

 自己収束型光ファイバーでは、コアの部分のガラスの屈折率を、中心から周辺に向かって連続的に低くなるように変化させてレンズのような効果を持たせています。こうすることで、光の入射角による経路の違いを最小限に抑えることができます。

ステップ型光ファイバーと自己収束型光ファイバーの比較

 西澤教授は、この他にも、光を発生させるための半導体レーザー、光を受信するフォトダイオードを1950年代に発明しています。現在では、光ファイバーといえば長距離高速通信のバックボーンとして、私たちの生活に欠かせない社会インフラとなっていますが、これを可能にしたのは西澤教授の発明があったからといっても過言ではありません。

 

■ 窓がない部屋を照らす日の光

 一方で、光ファイバーは、本来の用途であった「光を通す経路」としても私たちの生活の中で利用されています。最近は、体内を照らす医療用のファイバースコープだけでなく、光ファイバーを利用した照明が注目されています。

 ファイバーを利用した照明の基本的な構造は、照らしたい場所から離れたところにランプなどの光源を置き、光ファイバーの一方の端を照らします。光は、光ファイバーを伝わって、もう一方の端から周辺を照らします。

 光ファイバーを使うことで、実際に照明する場所と光源を離しておくことができます。高いところや手の届きにくいところなどに照明を設置する場合や、多数の照明が必要な場合でも、光源はメンテナンスやランプ交換をしやすい場所にまとめて設置することができます。

 光源を離すもうひとつの大きなメリットは、光だけが伝わり、熱が伝わらないことです。美術館や博物館の展示品は、熱による劣化が問題となるため、光ファイバーを使った照明システムが採用されはじめています。

 光源としてランプではなく太陽光を利用すると、窓がない部屋にも自然光を取り入れることができます。レンズを使った集光システムが太陽の動きを追尾することで、効率よく光を取り入れる仕組みは「ひまわりシステム」として商品化されています。

■ 夜を彩る光ファイバー

 光ファイバーを使った照明は、夜を彩るイルミネーションにも利用されています。1本のファイバーは髪の毛ほどの細さですから、微細な光の点で絵を描いたり、光源とファイバーの間にカラーフィルターをはさみ、回転させることで、色の変化を楽しむことができます。

 また、ファイバーの外側を覆うカバーを取り除くと、光ファイバーそのものが明るく輝いている様子が見えます。これからのシーズンに街を飾る、さまざまに色を変えながら光るクリスマスツリーには、光ファイバーが大量に使われているものをよく見かけます。光ファイバーの技術は、私たちの生活の便利さだけではなく、楽しさも広げてくれています。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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