テクの雑学

第109回 おいしさをそのまま凍らせる技術 —CAS冷凍—

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

食品を長期保存するための冷凍は、いまや私たちの食生活に欠かせません。とはいっても、冷凍食品といえば、どうしても味が落ちてしまうと思いがち。ところが最近、冷凍したまま、数年間鮮度を保てる新しい技術が話題になっています。もっとおいしく、もっと新鮮に、冷凍技術は進化しています。
 

冷凍するとなぜおいしくなくなるの?

食品を冷凍するということは、正確にいえば、「食品の細胞中に含まれている水を凍らせる」ということです。食品は多くの水を含んでおり、たとえば野菜や果物では重量の8割から9割、魚・肉などで7割前後、豆・穀類でも1割から2割が水分となっています。

 従来の冷凍は、食品の表面に冷気を噴きつけることで、食品中の水分を凍らせていました。表面から冷えていくので、表面に近いところから中に向かって氷結が進みます。

 表面から凍り始めることで、内部の温度が下がるのには時間がかかるようになります。凍り始め=0度前後なので、外部の冷気に比べると温度が高いため、表面の氷に冷気がブロックされて温度が下がりにくくなるのです。さらに、食品内部の水分子は、外側の氷に毛細管現象で吸い上げられ、内部が乾燥します。また、凍るのに時間がかかると、氷の結晶は大きく成長してしまうので、細胞膜が破壊されてしまいます。

 このような状態で凍っている食品を解凍すると、溶ける時に、壊れた細胞膜から中の水分がうまみ成分と一緒に外に流失してしまいます。また、解凍したものは水分が抜けてぱさぱさになってしまいます。
 

■ 「瞬間冷凍」を実現する過冷却

 つまり、おいしく凍らせるためには、「全体を均一に凍らせること」「氷の結晶が成長しないように短時間で凍らせること」がポイントになります。これを実現するために利用されているのが、液体を静かに冷やすと凝固点以下でも凍らない「過冷却」という現象です。

 水が凍る時には、小さな氷のかけらや不純物を核にして、その周辺に水分子がくっついて氷が大きく成長していきます。逆にいえば、核になる氷のかけらや不純物がない状態であれば、温度を下げても水は氷にならず、0度以下になっても水のままの「過冷却水」ができます。

フラットヘッド方式スキャナの仕組み

ゆっくり静かに冷やしていくことで、0度以下の温度でも水のままにできる(過冷却水)


 過冷却水の中に小さい氷のかけらを投げ込んだり、少し衝撃を与えると、近くにある水分子同士がくっついて、全体が一気に凍ります。

■ おいしさをそのまま閉じ込める「CAS冷凍」

 最近話題になっているのが、冷凍することで何年でも新鮮なときのままに食品を保てる「CAS(Cells Alive System)冷凍」です。CAS冷凍は、食品中の水分を「過冷却」の状態にして、一気に凍らせています。

 過冷却状態を保つために、CAS冷凍では、冷凍装置内に磁場を発生させて水分子を細かく振動させながら冷やします。振動の強さは、水分子を動かさず、なおかつ細かく振動させるように調整されているので、低温の水分子同士が衝突して起こる氷の核の形成を防ぎます。

 過冷却状態のまま十分に温度が下がったら、小さな衝撃を与えて一気に全体を凍らせます。この時にできる氷は、大きく育った結晶ではなく、微小な氷の粒の集まりなので、細胞膜を傷つけることはありません。CAS冷凍で凍らせた食品は、解凍してもドリップが出ず、細胞中の水分も失われていません。

 CAS冷凍は業務用冷凍食品や生鮮食料品の冷凍技術として普及しつつあり、デパートやスーパーの冷凍食品売り場でもCAS冷凍の商品が増えています。また、細胞を壊さないままで冷凍できるので、食品だけではなく、移植用細胞や臓器の長期保存にも応用できる技術として注目されています。

■ おいしく凍らせ、解凍するには

 最近は、CAS冷凍を応用して瞬間冷凍を実現した家庭用冷凍冷蔵庫も登場していますが、冷蔵庫を買い換える前に、家庭でもできる工夫を紹介しましょう。

 おいしく食品を凍らせるには、均一に、できるだけ短時間で凍らせることが大切です。そのためには、できるだけ小さく分けて凍らせるのが最初のポイントです。小さくすることで、外部が凍り始めてから内部が凍るまでの時間をできるだけ短縮します。

 もうひとつのポイントは、上手に均一に解凍することです。たとえば流水で冷凍した食品を解凍すると、外側の溶けた部分と少し内側のまだ凍った部分の境界が再び凍る「再氷結」を繰り返すので、その過程でまた細胞が破壊されてしまいます。

 業務用の解凍装置には、冷却と電磁波による過熱(電子レンジと同じ原理)を繰り返すことで、できるだけ内部と外部の温度を均等に保ちながら少しずつ解凍していく機器があります。家庭でも、電子レンジの解凍モードは、出力を弱くして断続的に加熱することで、同様の効果が得られます。

 凍らせる時、解凍する時に、それぞれ少しだけ手間をかけることで、よりおいしく食べられるようになります。食生活を豊かにするために欠かせない冷凍技術だからこそ、上手に利用していきたいものです。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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