テクの雑学

第127回 デジタル生活で活躍するバッテリの劣化はなぜ起こるの?

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

 携帯電話やノートパソコン、デジタルカメラなど、私達の生活で身近に使っているバッテリ。長い間使っていると、購入したばかりの時に比べて、どうも持ちが悪くなるように思えます。これは、バッテリの劣化という現象ですが、その発生メカニズムはバッテリの種類によって異なり、また対策も異なります。

二次電池「充電」のしくみ

個別のバッテリの種類の話をする前に、「電池」の種類についてざっとおさらいをしておきましょう。電池には、大きく分けて、一次電池と二次電池があります。どちらも化学反応により電気を取り出すのですが、大きな違いは、一次電池で使う化学反応は、元の状態に戻ることのない「非可逆的反応」なのに対し、二次電池で使う化学反応は、放電した電池に電気エネルギーを与えることで元に戻る「可逆的反応」であることです。すなわち、一次電池は簡単に言えば、元に戻る「充電できない使い捨ての電池」なのに対し、二次電池は「充電によって繰り返し利用できる」という点です。
 

【 参考情報 】

■テクの雑学 第32回 未だ主役の身近なエネルギー源 一次電池と二次電池の違い


 電池の基本的な構造は、正極と負極と電解質により構成されています。発電時に起こる反応は、まず、負極の金属が電子を放出して電解質に溶け出します。自由になった電子は負極から導線を通って正極へと移動します。電解質に溶け出した金属は、正極で電子を受け取り、金属に戻ります。

 充電時には電圧をかけることによって、この逆の反応を発生させます。すなわち、正極の金属が電子を放出してイオンになり、負極側で導線を通ってきた電子を受け取り金属に戻るのです。


放電時には、負極側で金属のイオン化が起こり、電子が負極にわたされる。電子は負極から出て正極側に戻り(つまり電流としては正極側から)、正極側ではその電子と電解質内の金属イオンが反応して、金属として正極側に析出する。充電時には逆の反応が起こり、正極側から負極側へ電子が移動する。


電極と電解質の種類によって、いくつかの種類の二次電池がある。
 

 電池のサイズ(大きさ、形)や容量(電流、電圧)などには、それぞれ数種類の規格がありますが、必要となるバッテリの能力や形は使用する機械によって異なります。これらの規格にあった電池を「セル」と呼びます。実際に私達が目にするバッテリは、必要な数のセルを集めた「バッテリパック」です。携帯電話の場合は必要な容量が小さいため、1つのセルで1つのバッテリパックとなっていることが多いですが、例えばパソコンのバッテリなどは、容量が大きいため、複数のセルを持ちます。

■ 長持ちさせるコツは電池によって違う!

 さて、二次電池は、充放電を繰り返すうちに、だんだん使える時間が短くなっていきますが、実はその理由は電池の種類によって異なります。したがって対策も異なります。

●鉛蓄電池

 鉛蓄電池では、放電することによって、電極そのものが劣化する。正極側の電極は、放電により、はがれ落ちます(脱落する)。また、負極側では、鉛の表面が白色硫酸鉛という化合物になるサルフェーションという現象が起こり、電極自体の表面積が減ります。硫酸鉛は電気を通さず抵抗となり、また溶解度が低いため金属鉛が充放電のサイクルに戻らないため、発電効率が著しく低下します。

 サルフェーションを急速に進行させるのが、過放電です。放置しておいても、勝手に発生する自己放電によっても反応は進行していきます。車に長期間乗らずに放置していると、バッテリがあがってしまい、充電ができなくなるのも、このためです。完全に放電しきるまえに充電することが、鉛蓄電池を長持ちさせるためには重要なのです。

●ニッケル水素電池(ニッケル・カドミウム電池)

 ニッケル・カドミウム電池の負極に使用するカドミウムが有害な重金属であるため、代替品として負極に水素吸蔵合金を使用したのがニッケル水素電池です。したがって、この2つは同じような特徴をもっています。

 これらの電池の劣化における特徴は、「メモリ効果」と呼ばれる現象です。バッテリを完全に使い切らず途中から再充電すると、前回の充電ポイントで大きく放電電圧が低下する現象です。「浅い深度の放電を受けた経歴を記憶(メモリ)」しているように見えるのでそう呼ばれています。
 同じぐらい放電したところからの再充電を繰り返していると、この傾向は顕著になります。結果的に、再充電ポイントを超えても放電を継続する時に電圧が急降下します。機器側のバッテリ容量検知は放電電圧で判定しているため、電圧の急降下により「バッテリ切れ」と判定されるようになります。


 メモリ効果が発生する原因は、実はよく分かっていませんが、再充電時に放電不可能な物質が蓄積していく、電極に使用している金属の合金が生成され、充放電サイクルに戻らなくなるなど、いくつかの説があります。

 原因ははっきりしませんが、現象の解決には、「深い放電」(バッテリを完全に使い切るまでの放電)が有効なことが分かっています。最近の製品では、充電器そのものに、充電前に一度バッテリを完全に使い切るまで放電する「リフレッシュ機能」がついているものも多くみられます。
 また、ニッカド電池やニッケル水素電池、特に後者では、放置しておくだけで特に機器類を使用しなくても放電する「自己放電」が比較的大きいという特徴があります。満充電の状態で放置し、少しだけ使ってはまた充電するような使い方では、再充電ポイントが高くなりやすく、すぐに使えなくなってしまいます。

 劣化を防ぐためには、自己放電によるメモリ効果と容量低下を防ぐため、充電せずカラの状態で置くことが望ましいです。ただし、その場合いざ使用する時に、長時間の充電が必要になるというデメリットもあります。
 最近の製品は、自己放電を抑えると同時にわずかに電圧を高めています。自己放電が抑えられているため、充電状態で保存していても容量低下が起こりにくくなっています。また、電圧は、メモリ効果による電圧の降下が起こっても機器の検知ポイントを上回るように設定されており、機器の動作に対してメモリ効果の影響を受けにくくなっています。

●リチウムイオン電池

 ニッケル水素電池・ニッカド電池と比べたリチウムイオン電池の大きな特徴は、「メモリ効果がない」ことです。最近の携帯電話やパソコンのバッテリの多くが、リチウムイオン電池に置き換わっています。しかし、バッテリを使い続けているうちに、どんどんバッテリの持続時間が短くなっていくのが事実です。リチウムイオンバッテリの容量が減るのには、大きく3つの原因があります。

 1つめの原因は、電極自体の劣化です。負極材料として使用されている炭素の分子構造が徐々に変化することで、炭素内に収められるリチウムイオンの量が減ります。この変化は熱によって加速され、また充電されている状態でも加速されます。
 例えば、携帯電話を自宅で毎晩充電器に載せるような使い方をしていると、バッテリはほぼ常に満充電状態になります。この状態で暑い屋外に外出したり、車のダッシュボードに放置したりすると、バッテリの劣化は急速に進行します。
 また、充電量30%以下・保存温度15℃以下であれば、1年間の保存でも数%の容量劣化で収まりますが、満充電・45℃で保存すると、6ヶ月間の保管で60%程度の容量レベルにまで劣化するという調査結果もあるそうです。

 2つめの原因は、バッテリパックに内蔵された調整用コンピュータです。リチウムイオンバッテリは充電時の電流・電圧を細かくコントロールする必要があるため、過充電・過放電を防止するためのコンピュータがバッテリパックに内蔵されています。充放電を繰り返しているうちにコンピュータの精度に狂いが生じ、実際にはまだ充電できる状態で充電が止まってしまうことがあります。この現象は、バッテリの完全放電によって調整できますが、放電しすぎで過放電(放電しすぎて電圧を加えても、充電のための化学反応が発生しない状態)にならないように注意が必要です。

 3つめの原因は、バッテリパック内のセルバランスの崩れです。携帯電話のような小さいバッテリでは、バッテリパック内には1つのセルしかないのであまり問題になりませんが、ノートパソコンなどの大容量のバッテリに内蔵されているセルによって、同じ時間使用していても「バッテリ切れ」が表示された時点での放電量に差がでてきます。

 バッテリの充電器は、セルのうち1つが満充電になると「充電完了」と判断して、充電を終了します。そのため全体としてみれば満充電ができていない状態となります。


 充放電を繰り返すたびにセルバランスの崩れは大きくなっていくため、全体として容量が低下するようにみえます。できるだけ充電回数を少なくする使い方をすることが劣化を防ぐためのポイントになります。

■ 今後のエコ消費のためのアドバイス

 まとめると、リチウムイオンバッテリの劣化を防ぐためには、充電回数をできるだけ少なくするために、できるだけ使ってから一気に充電します。また、長期間使わない場合は「電池の充電量を50〜80%程度まで減らして」「高温にならないところ」で保管することが重要です。

 電池の種類別に、劣化の仕組みと長持ちさせるためのコツをみてきましたが、注意して使用しても、電極や電解液の経年劣化による性能低下は避けられません。バッテリの持ちや充電にかかる時間をよく見て、適切な時期に交換しましょう。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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