じしゃく忍法帳

第66回「ロウソクの炎と磁石」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

磁束を封じ込めた超電導永久磁石

忍者が使った水中タイマツとは?

 水中タイマツ(松明)という火器が忍法秘伝書に載っています。束ねた木材や竹筒の内部に、イオウ、灰、硝石、ショウノウの混合物を入れたものです。通常のタイマツは酸素なしには燃えませんが、水中松明の原料は火薬なので水中でも消えません。

 つい100年ほど前まで、人類が照明に用いてきたのは火で、燃料や燃焼方式の違いにより、さまざまな呼称があります。たとえば金属製のカゴに薪を入れて燃やす照明はかがり火(篝火)といい、皿に油を入れ、灯心を浸して火をつける照明はともしび(燈・灯火)といい、灯心を立てて燃やす方式は燭(しょく)と呼ばれました。ロウソク(蝋燭)はロウ(蝋)を燃料とするショク(燭)という意味のロウショクがなまった言葉。このためロウソク立てのことを燭台といいます。

 科学書の古典『ロウソクの科学』は、イギリスのファラデーが王立研究所で行った少年少女向けのクリスマス講演(科学実験とその講義)をまとめたもので、身近な照明であるロウソクを利用しながら、さまざまな現象を平易に解説した名著です。高価な天然ロウにかわり、パラフィンを原料とする安価なロウソクが普及するのは1830年ごろ。『ロウソクの科学』のクリスマス講演が行われた1860年には、家庭でもロウソクが使われるようになり、科学実験にはかっこうの材料だったのです。
 

ロウソクの炎は磁石の磁界に応答する

 燃え立つロウソクの炎の横から、強力な磁界を加えると、どうなるでしょうか? 不思議なことに、立ちのぼっていた炎は、磁界に押しつぶされて横にたなびきます。これはロウソクの炎が反磁性体だからです。

 磁石に吸着する物質を強磁性体(あるいは単に磁性体)といい、それ以外の物質は一般に非磁性体と呼ばれます。しかし、あらゆる物質は何らかの磁性をもっています。外部磁界の方向に弱く磁化される性質は常磁性といい、磁界と反対向きにごく弱く磁化される性質は反磁性といいます。

 1845年、ファラデーは王立研究所で自作した強力なU字型電磁石を用いて、初めて反磁性という現象を発見しました。U字型電磁石の磁極の間にガラス片を吊るして、電流のスイッチを入れたところ、ガラス片がわずかに動いたのです。

 物質の磁性のほとんどは電子の自転(スピン)に伴うスピン磁気モーメントに起因します。簡単にいえばスピン磁気モーメントがバラバラの方向を向いた状態が常磁性であり、整列した状態が強磁性です。一方、電子の軌道運動などによっても磁界が生じます。反磁性は主にこの電子の軌道運動が関与します(金属の場合は伝導電子=自由電子の運動が関与していて、ランダウ反磁性と呼ばれます)。電子の軌道運動のような環電流をもつ物質に外部磁界を加えると、外部磁界を打ち消す方向に磁界が誘起されます(レンツの法則)。この磁気的分極が反磁性の正体です。

 身の回りのあらゆる物質は軌道電子あるいは自由電子をもつので、潜在的に反磁性体ということになります。ただし、反磁性が確認されるのは、強磁性や常磁性といった電子のスピン磁気モーメントの効果が少ない物質にかぎられます。

 

強力な電磁石の磁界によるロウソクの炎(反磁性体)の変化


図1 強力な電磁石の磁界によるロウソクの炎(反磁性体)の変化

完全反磁性とマイスナー効果

 主な反磁性体としては、金、銀、銅、鉛、亜鉛、ビスマス、炭素、アルミナ、水、水晶、ベンゼン、エチルアルコールなどがあります。ロウソクの炎というのは、灼熱状態の炭素の微粒子なので、強力な電磁石で磁界を加えると、磁界に押し出されるような動きを示すと説明されています。線香などの煙においても同様の現象が起こります。

 超電導体ではもっと面白い現象が観察されます。超電導状態においては、電気抵抗がゼロとなる完全導電性とともに、内部の磁束がすべて排除される完全反磁性が現れます(マイスナー効果)。このため磁石の上に超電導体を置くと、超電導体が浮き上がります。セラミック系の高温超電導体が発見された1980年代半ばには、目に見える量子力学的現象として、テレビなどでもデモンストレーション実験が行われました。

 ちょっと話が複雑になりますが、磁性体に硬磁性(ハード)材料と軟磁性(ソフト)材料があるように、超電導体にも第1種超電導体(軟超電導体)と第2種超電導体(硬超電導体)があります。

 超電導状態の物質に、磁界を加えて徐々に強めていくと、超電導状態から常電導状態に転移します。これを臨界磁界といいます。純金属(単体)においては、この転移が明確で、第1種超電導体と呼ばれます。一方、合金系やセラミック系の超電導体においては、第1・第2の臨界磁界が存在して、この2つの臨界磁界にはさまれた領域では、超電導相と常電導相が混在しています。完全反磁性の状態では、磁束は内部に進入しませんが、第1・第2の臨界磁界にはさまれた領域では、磁束の一部が超電導体の内部に進入し、渦糸構造と呼ばれる状態をつくっています。ここにおいて、外部磁界を取り去ると、磁束が取り残されて(ピン止めと呼ばれる効果による)、永久磁石と同じ性質を示すようになります。これを“超電導永久磁石”といいます。冷却装置が必要となりますが、通常の永久磁石のように飽和磁化がないため、きわめて高性能な永久磁石が得られると考えられ、今後の応用に期待が寄せられています。
 

 

第1種超電導体と第2種超電導体

図2 第1種超電導体と第2種超電導体

超電導ブームが再燃?金属系で臨界温度が更新

 最近の話題もあわせてご紹介します。2001年1月、かつての超電導ブームを再燃させるようなニュースが世界をかけめぐりました。青山学院大学の研究チームが、臨界温度39K(−234℃)という新たな金属系超電導体を発見したからです。しかも、これはホウ素とマグネシウムというありふれた物質の化合物でした。

 従来、金属系超電導体における臨界温度は、ニオブ3ゲルマニウムの約23Kが最高でした。今回、発見された2ホウ化マグネシウムは、この記録を16Kもいっきに更新した新材料。液体窒素の温度(77K)には届かないものの、従来材よりも臨界温度が高い分、冷却にかかるコストが削減できます。また、金属系なので線材に加工することも容易です。セラミック系超電導体においては、臨界温度が150Kを超えるものも続々と発見されていますが、金属酸化物の粉末を原料とするため、線材に加工するのが困難なのです。

 実用的な超電導体としては、臨界温度だけでなく、臨界電流の高さも求められます。電気抵抗がゼロになるとはいえ、流す電流が強くなると突然、超電導状態を消失してしまうからです。これを臨界電流といいます。超電導コイル(超電導磁石)には金属系超電導体が使われるのはこのためです。2ホウ化マグネシウムが注目を集めているのは、臨界温度ばかりでなく臨界電流も高いという特長があるからです。

 路面に磁石を敷き詰めれば、人間を乗せたまま超電導体を磁気浮上させることは原理的に可能です。空飛ぶじゅうたんとはいかなくても、磁気浮上自動車がそのうち開発されるかもしれません。
 

 

超電導永久磁石の原理

図3 超電導永久磁石の原理

PAGE TOP