なるほどノイズ(EMC)入門

【実践編④】パソコンの放射ノイズ対策はインタフェースがポイント

電子機器のデジタル化・高速化はとどまることのない技術トレンド。パソコンのクロック周波数も年を追うごとに高まり、画像や映像などの大量データの伝送は、USBやIEEE1394などの高速インタフェースにより短時間で実行できるようになりました。その一方で、ますますシビアな対応に迫られているのが放射ノイズ問題。従来、30MHz〜1GHzだったパソコンの放射ノイズ規制は、CISPR(国際無線障害特別委員会)によって6GHzにまで拡張されました。

パソコン内部ではマザーボードがノイズの主な発生源

従来、テレビ機能がついているパソコンといえばデスクトップ型が中心で、ノートパソコンへの搭載はそれほど進みませんでした。これには理由があります。実はテレビのチューナーは、パソコンと相性がよくありません。様々なノイズにあふれるパソコン内部は、チューナーにとってきわめて劣悪な環境だからです。デスクトップ型ならノイズ発生源とチューナーを遠ざけることも可能ですが、回路が高密度に凝縮されたノートパソコンでは、チューナーを内蔵させるためのスペースを確保することすら困難。このためチューナーは外付けタイプが主流となっていました。
パソコンに出入りするノイズとしては伝導ノイズと放射ノイズがあります。電源線や信号線から伝わる伝導ノイズに対しては、LCフィルタやコンデンサ、インダクタ、チップビーズなどを用いた“フィルタリング・反射・吸収”といった手法で除去できますが、空間を伝わる放射ノイズについては、金属や電磁シールド材によるシールディングという手法が不可欠となります。
パソコン内部において、とりわけ大きなノイズ発生源となっているのはマザーボードです。パソコンの頭脳にあたるCPUほか、チップセットやメインメモリといったLSIが搭載され、デジタル信号の高速伝送・処理にともなう周期性ノイズが放射されます。デスクトップパソコンの場合は、金属筐体で囲まれているので、マザーボードからの放射ノイズが直接、他の電子機器に与える影響はかなり低減されます。しかし、プラスチック素材が使われるノートパソコンは、そのままではマザーボードが剥き出しに搭載されているのに等しく、導電塗料をスプレーしたりして放射ノイズを遮断しています。しかし、それでもなおパソコンから放射ノイズを完全に除去することはできません。

パソコン内部では、マザーボードが主なノイズの発生源となる。そこで、金属ケース、電磁シールド材、導電塗料などでパソコン本体をシールディングしている。また、CPU、チップセット、ビデオチップまわりには、低ESLコンデンサやチップビーズなどがノイズ除去用に使われる。

差動伝送方式の高速デジタルインタフェース

パソコンからは多かれ少なかれノイズが放射されていることは、携帯ラジオをパソコン本体やモニタ、インタフェース・ケーブルに近づけると受信障害が起きることで確かめられます。また、ADSLや無線LANの通信速度が落ちたりといったトラブルの多くにも放射ノイズが関係しています。
現実にはパソコンを完璧なシールドするというのは不可能です。というのも、パソコンは外部機器と接続されるため、そのインタフェース部が放射ノイズの出入口となるからです。とりわけキーボード、マウス、モニタ、プリンタなどと接続するケーブルは、放射ノイズのアンテナとして機能します。
ノイズの伝わり方にはディファレンシャルモードとコモンモードの2種類があります。2本の導線を往路・帰路とするノイズをディファレンシャルモードといい(信号電流もディファレンシャルモードです)、床や大地などを経由して機器に侵入してくるのがコモンモードノイズです。コモンモードノイズの電流は信号電流などと比べて微弱ですが、大きなループを描くことが多く、その結果、離れた電子機器にも誤動作などの被害を及ぼします。
パソコンとプリンタなどの周辺機器を接続するインタフェースとして、以前はパラレル・インタフェースが用いられていました。16ビットや32ビットなどのデータを、同期をとりながらまとめて伝送する方式です。しかし、この方式は複数の信号線を必要とするばかりでなく、さらなる高速化に対応できないという問題をかかえていました。クロック周波数が高まるにつれ、信号線の長さや形状などが原因して信号到達速度はビットごとに異なるようになり、同時に届かなくなるという現象が起きるからです。
信号をビットごとに順次伝送するシリアル伝送ならば、こうした問題を回避できます。とはいえ信号線と往路、アースを帰路とするシリアル伝送(シングルエンド)では、信号線とアースの間の浮遊容量のアンバランスによってノイズが発生したり、また外来ノイズの影響を受けて機器の誤動作をもたらしやすいという問題が発生します。
そこでデジタル信号伝送の高速化の切り札として登場したのが差動伝送方式です。これは位相を180°反転させた信号を2本の信号線で伝送し、受信側では2本の信号の差を検出するという方式です。外来ノイズに強く、不要放射も少なく、高速化にも向いています。

USB接続の便利さもコモンモードフィルタが支える

USBやIEEE1394は差動伝送方式の高速インタフェースです。とりわけパソコンにおいては、キーボード、マウス、プリンタなどが、USBによって同じケーブルとコネクタで統一されることになり、接続がきわめて容易になりました。デジタルカメラで撮影した写真データや、パソコンに格納した音楽データの転送なども、USB接続によって短時間で転送できます。しかし、インタフェースの高速化が進むほど、デジタル信号に含まれる高調波成分が放射ノイズとなり、さまざまなトラブルを起こします。
理想的な差動伝送方式においては、2つの差動信号の山・谷は相互に相殺しあうので、その和で表されるコモンモード電圧はゼロとなりノイズは発生しません。しかし、現実にはパルス状の差動信号の位相や立ち上がり・立ち下がり時間のズレ、パルス幅の振幅の違いなどがあるため、スキューと呼ばれる不平衡成分が生じてコモンモードノイズが発生します。
パソコンをはじめとする身近な電子機器における放射ノイズ問題の原因のほとんどは、コモンモードノイズといって過言ではありません。そこで、パソコンと周辺機器を結ぶインタフェースのコネクタ部に挿入することにより、コモンモードノイズを除去するのがコモンモードフィルタです(コモンモードフィルタの原理については、本シリーズ部品編⑤をご参照ください)。

https://www.jp.tdk.com/tech-mag/noise/08

コモンモードフィルタにはいろんな特性のものがありますが、高速インタフェースにおいては、信号を減衰させないように、できるだけカットオフ周波数が高いものを選ぶことがポイントです。デジタル信号の矩形波は、基本波とその奇数倍の高調波の集まりです。デジタル信号伝送においては、基本波の5〜7倍までの高調波まで伝送することで信号品質を保つことができます。たとえば、伝送に使用される周波数が800MHzの場合、 その7次高調波は5.6GHzとなり、この帯域までカバーするコモンモードフィルタが必要になります。
蓄積したフェライト技術やフィルタ設計技術、先進の精密自動巻線技術などを駆使して開発したのがTDKのコモンモードフィルタ。カットオフ周波数を従来の1.6GHzから6GHzにまで拡大したHDMI用コモンモードフィルタはじめ、高速インタフェース時代に向けた豊富な製品をラインナップしています。高速化・デジタル化が進行すればするほど、身のまわりの電子機器はコモンモードノイズの危機にさらされます。単にコモンモードノイズを除去するだけでなく、信号波形をよりきれいにするのがTDKのコモンモードフィルタ。パソコンとの融合化がますます進行しているホームネットワークを支える頼もしいEMC対策部品です。

基本波から5次〜7次の高調波まで伝送することで信号品質は保たれる。矩形波が台形波となるのは、高次の高調波成分がカットされているため。

実際の差動信号は、不整合やジッタなどによる位相差が生じ、対策なしにはコモンモードノイズが発生してしまう。

コモンモードフィルタは、コモンモードノイズを除去するとともに、ディファレンシャルモードの信号波形をよりきれいにして、理想的な差動信号に近づける。

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