パワーエレクトロニクス・ワールド

第3回 DC-DCコンバータの回路技術

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

直流電圧を別の直流電圧に変換するのがDC-DCコンバータの役割。変換効率にすぐれるスイッチング方式のDC-DCコンバータは、電子機器の省電力化や小型・軽量化に貢献。高機能化が進む携帯電話などのモバイル機器にも、多数の小型DC-DCコンバータが搭載されて回路を駆動しています。

電子機器の進歩とともに電源はますます多様化

前号で紹介したように、直流電圧の変換には三端子ICなどを用いたリニア方式のものもありますが、DC-DCコンバータといえばスイッチング方式が主流です。リニア方式は電力の一部を熱として捨てて必要な電圧の直流出力を得る方式。かたやスイッチング方式は、入力された直流をスイッチング素子によってパルス電流に細分し、それらをつなぎ合わせて必要な電圧の直流出力を得る方式です。たとえていえば、リニア方式は丸太をカットしてムクの板材を得るようなもので、どうしても多くの端材がロスとして出てしまうばかりでなく、板幅は丸太の直径以下にかぎられます。一方、スイッチング方式は多数の木片をつなぎあわせた集成材のようなもので、材料を無駄なく使えるうえ、自由な寸法のものが得られるなどのメリットをもちます。リニア方式の変換効率は約30〜50%からせいぜい70%程度にとどまるのに対して、スイッチング方式では80〜90%以上にも及ぶのはこのためです。ユニット型のスイッチング電源には、交流から直流への整流回路とDC-DCコンバータがいっしょに組み込まれ、単一あるいは複数の電圧の直流が出力されます。しかし、電子機器の多機能化・デジタル化が進むにつれ、回路を駆動するためのさまざまな直流電圧(12V、5V、3.3V、2.5V、1.8V、1.3V、1.0V、0.8V…など)を得るために、独立したDC-DCコンバータが機器内に複数搭載されるようになりました。さらに近年は、効率化やノイズ対策などの点から、IC近くに小型のDC-DCコンバータが数多く分散配置されるようになっています。このように電子機器の進歩とともに、電源は著しく多様化しています。とりわけDC-DCコンバータはパワーエレクトロニクスの世界で膨大な製品群を形成していて、ざっとタイプ分けするだけでも多岐にわたるため、よくよく整理しながら理解していかないと混乱に陥ります。そこで、まずはDC-DCコンバータの降圧・昇圧の基本原理から説明します。たとえば図のように、バッテリにつないだランプのスイッチを素早くON/OFFさせると明るさが落ちます。点滅の平均の明るさとして見えるわけですが、これは電圧が低下したことと同等です。したがって、ON/OFF周期の時間を調節すれば、電圧をコントロールすることができます。ごく簡単にいえば、これがDC-DCコンバータの電圧変換の原理。電流をON/OFFするスイッチング素子として、トランジスタやMOSFETなどの半導体素子が用いられます。

チョッパ方式ではチョークコイルが重要な働きをする

最も簡単なDC-DCコンバータはチョッパ方式と呼ばれるもの。チョッパとは“切り刻む”という意味で、電流をスイッチングによって切り刻んで電圧変換することに由来します。チョッパ方式ではコイルが重要な働きをします。スイッチング素子のON/OFFのたびに、回路に流れる電流は急激に変化しますが、コイルは電流変化を妨げるように起電力(電圧)を生んで誘導電流を発生させます(レンツの法則)。電流変化を繰り返す交流電流に対しては抵抗のように振舞い、あたかも電流は“息が詰まる(choke)”ようになるという意味から、この性質を利用するコイルはとくにチョークコイルと呼ばれます。チョッパ方式のDC-DCコンバータはスイッチング素子とチョークコイル、コンデンサ、ダイオードを組み合わせたシンプルな回路で、直流電圧を降圧あるいは昇圧しています。図に示すのは、チョッパ方式の降圧型DC-DCコンバータであるバックコンバータ(ステップ・ダウン・コンバータともいう)と、昇圧型であるブーストコンバータ(ステップ・アップ・コンバータともいう)の基本回路です。スイッチング素子(図ではトランジスタ)、チョークコイル、ダイオードの位置がそれぞれ異なるところが、回路を読み解くポイントです。チョークコイルはスイッチONとなって電流が流れ込むとエネルギーを蓄え、スイッチOFFとなったとき蓄えたエネルギーを放出して、電流変化を妨げる向きに誘導電流を流します。図では省略していますが、トランジスタのベースは制御回路と接続され、制御回路から送り込まれる方形波がスイッチングを実行します(方形波の電圧のハイ/ローによってON/OFFする)。スイッチONの時間が長いほど出力電圧は上がり、スイッチOFFの時間が長いほど出力電圧は下がるので、 ON/OFFの時間(デューティ・サイクル)を制御することで必要な出力電圧が得られます(PWM=パルス幅制御)。制御回路は複雑な回路をもちますが、IC化されているので基板上ではそれほどスペースをとりません。基板上で大きなスペースを占めるのはコンデンサ(電解コンデンサ)やチョークコイルです。チョッパ方式のDC-DCコンバータとしては、上記の2タイプのほか、降圧・昇圧ともに可能なバックブーストコンバータというタイプもあります。これはバックコンバータのダイオードの向きを逆にしたもので、出力電圧のプラス・マイナスが反転するため、極性反転型とも呼ばれます。

トランスを用いた絶縁型DC-DCコンバータ

チョッパ方式のDC-DCコンバータは回路もシンプルなため、基板に搭載される小型オンボードタイプのDC-DCコンバータとして多用されています。チョッパ方式のようなDC-DCコンバータを非絶縁型というのに対して、トランス(スイッチングトランスなどと呼ばれる)を用いたタイプを絶縁型といいます。トランスはコア(鉄心やフェライトコアなど)に1次巻線と2次巻線を巻いたもので、1次巻線に電流変化が起きると、レンツの法則に従い、それを妨げるように電流方向とは反対向きの起電力(逆起電力)が発生。そして、コアを通じた磁束変化により2次巻線にも起電力(誘導起電力)が発生して誘導電流が流れます。チョークコイルの働きと原理的に同じ電磁誘導によるものですが、チョークコイルにおいては自己誘導といい、トランスでは相互誘導と呼ばれます。チョッパ方式ではチョークコイルがエネルギーを蓄える性質を利用したように、絶縁型DC-DCコンバータではトランスが溜めるエネルギーをたくみに利用して電圧変換します。トランスによって入力側と出力側が電気的に絶縁されているため絶縁型と呼ばれます。伝導ノイズの遮断や感電防止も図れます。
絶縁型DC-DCコンバータにもさまざまなタイプがありますが、最も基本的なのはフライバック・コンバータ(他励式)とフォワード・コンバータ(1石式)で、下図はその基本回路です(制御回路は省略してあります)。回路の読み解きのポイントはトランスです。トランスの回路図の脇に●印がついていますが、これは巻線の“巻き始め”の記号です。つまり、1次巻線、2次巻線が発生する起電力(逆起電力、誘導起電力)の向き(極性)を表しています。
絶縁型DC-DCコンバータでは、この極性が重要な意味をもちます。レンツの法則に従い、1次巻線、2次巻線の起電力(逆起電力、誘導起電力)の向きは、●印に対して同じ向きになります。そのための目印と考えてかまいません。フライバック式とフォワード式では●印の位置が違うことにも注目してください。
フライバック・コンバータ、フォワード・コンバータを基本として、プッシュプル・コンバータ、ハーフブリッジ・コンバータなど、絶縁型DC-DCコンバータには、さまざまなタイプがあります。それらについては次号以降でご紹介しますが、おおまかにとらえれば、非絶縁型DC-DCコンバータ(バック、ブースト)は小容量タイプ、絶縁型DC-DCコンバータのうち1石式のフライバック・コンバータ(他励式)は小容量タイプ、フォワード・コンバータは小〜中容量タイプです。中〜大容量タイプの多石式・絶縁型DC-DCコンバータとなると、回路はきわめて複雑になってきます。DC-DCコンバータは奥深い技術世界。さらなる高効率化や小型・軽量化、ノイズ低減に向け、先進の回路技術が投入されています。

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