テクのサロン

6. 携帯電話の通話の仕組み 〜なぜ輻輳が起きるのか〜

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

元旦を迎えた瞬間、「あけましておめでとう」の挨拶をしようと電話をかけてみたらつながらない……そんな経験はありませんか?実はここ数年、携帯電話のキャリア各社により、年末年始には「年越し通話規制」が実施され、発信着信の70%程度がカットされています。なぜそのような規制が必要になるのでしょうか。今月の「テクのサロン」では、携帯電話の通話の仕組みをみてみましょう。

時候の挨拶などでも、若年層の人たちから始まったケータイ電話でのやりとりが主流になってきました。年末年始以外でも、イベントのチケット予約などといった不可抗力によってタイミングが重なり、繋がらないこともあります。普段から待ち合わせなどの約束は、突発的な緊急事態の「もしも」の時に困らないようにすることこそ、必要な対策かもしれません。

■ 携帯電話への着信

固定電話であれば、電話番号を元に呼び出し信号を特定の端末に送ることで着信ができます。しかし、携帯電話の通話では、呼び出し信号を、その携帯電話に電波が届くところのアンテナから発信して、呼び出さなくてはいけません。つまり、「場所の確認」のあと、「呼び出し信号の発信」という手順が必要になります。  

携帯電話は自分から定期的に電波を発信して、自分の居場所を知らせる信号を発信しており、その信号を受信したアンテナから情報が端末データベースに送られています。電話がかかってきた時は、移動体交換局が端末データベースを検索して携帯電話の居場所を探し、そのエリアの無線制御局に呼び出し信号を送ります。無線制御局では自局管轄内のアンテナから一斉に呼び出し信号を送出します。携帯電話は最寄のアンテナから信号を受け取り、呼び出しが実際に行われます。

携帯電話を呼び出す手順の例。エリア内には複数のアンテナがあり、携帯電話は電波が届くアンテナのあいてるチャンネルを使って通信を確立する。

呼び出し信号を受信した携帯電話は、自分の位置を最寄のアンテナに対して通知し、通話するチャンネルを確定して通話をはじめます。移動しながら通話する時には、通信するアンテナを切り替える「ハンズオーバー」の処理を行います。

■ マクロセル方式とマイクロセル方式

アンテナの配置には、アンテナの出力を大きくして、1本のアンテナで広いエリアをカバーする「マクロセル方式」と、小出力のアンテナを多数配置して、アンテナの数を増やしてエリアをカバーする「マイクロセル方式」があります。

携帯電話はマクロセル方式、PHSはマイクロセル方式を採用しています。携帯電話は、アンテナの出力が大きく、1本のアンテナでカバーするエリアが広くなっています。カバーエリアが広い分、1本のアンテナを共用する人の数は多くなります。PHSは、1本のアンテナの出力が小さく、エリアが狭くなっています。  

端末側の電波の強さも、携帯のほうがPHSにくらべて強くなっています。携帯電話が使えない病院や検査機関でもPHSなら使えるのは、PHSの方が電波が弱いので、機器類に影響を与えないからです。

■ 電波共有の仕組み

さて、実際の通信ですが、特定の周波数の電波を使って行われます。ラジオを聞くときに、周波数を合わせて受信しますが、同じように携帯電話でも特定の周波数帯の電波を使って通信するのです。日本で現在一般用の移動体通信サービスに使われている電波の帯域は、大きく800MHz帯、1.5GHz帯、1.9GHz帯、2GHz帯の4つがあります。そのうち1.9GHz帯をPHS、それ以外の3つを携帯電話が使用しています。

それ以外の帯域は、各種の衛星や業務用通信、気象レーダー、放送などさまざまな用途に使われており、勝手に携帯電話が使うことはできません。また、電波は国境を超えて飛んでいきますから、海外との調整も重要な事項なのです。  

実際の通話では、最初の無線制御局からの呼び出し信号で通信を確立してから、あいている「チャンネル」を探して、受発信する電波をそのチャンネルにあわせた周波数に調整し、通信を開始します。  

しかしここで問題があります。使える周波数帯に限りがあるということは、用意できるチャンネルの数にも限りがあるということです。一番初期の携帯電話では、1つのチャンネルを1台の携帯電話が占有して通話していましたが、その方法では一度に通話できる携帯電話の数がチャンネルの数に縛られてしまいます。携帯電話の普及をすすめるために、同じチャンネルを複数の人が共有できる仕組みが必要になりました。現在実用化されている携帯電話の周波数共有の方式には、大きく分けるとTDMA方式とCDMA方式の2種類あります。  

TDMA方式は、電波の送受信を極短い時間に区切って行うことで、1つのチャンネルを複数の端末で共有する方法です。第2世代携帯電話ともよばれるPDC方式がこの方式です。もう1方のCDMA方式は、通話ごとに端末を識別する信号(拡散コード)をそうしたデジタルデータと一緒に送信し、受信した端末側で、拡散コードを元に自分あてのデータを取り出し、通話を確立します。第3世代携帯電話のドコモのFOMAやVodafoneで採用しているW-CMDAやauのCDMA2000がこの方式になります。TDMAに比べると、CDMAの方が、広い帯域を使うので、音質もよく、通信速度も速くできます。

■ 輻輳はなぜ起こるのか?

さて、「明けましておめでとう」コールのように、特定の時間帯に一度にコールが集中するような状況では、2つの問題が起こります。1つは、端末を探すための移動体交換局の処理能力の限界を超えてしまいます。もう1つは、限られたエリア内で許容数を越えた通話要求が発生することで、通話に使える電波そのものが不足してしまいます。この状態を、輻輳といいます。10月の「テクのサロン」で紹介した通り、同じような状況は、災害時に安否確認の電話が一時的に殺到することでも発生します。  

このような状態は、消防や警察などの緊急通話が通じなくなるなどの悪影響を引き起こす可能性があります。そのため、キャリア各社では、輻輳を防ぐために一般の通話に対して制限をかけるのです。初詣に出かけるときに、いつもの調子で「駅前についたら電話してね」などと言っていると、電話がつながらなくて連絡が取れなくなる可能性がとても高いです。携帯はあてにせず、待ち合わせなどは時間と場所をきちんときめるようにする必要があります。

 

著者プロフィール:板垣 朝子(イタガキアサコ) 1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける 著書/共著書 「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム) 「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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