正負円偏波に見られる磁化特性の相違点

強磁性共鳴の意外な内幕

前節では、"素のまま"のフェライトと、直流磁界Hdcにより飽和磁化に達したフェライトを試料として取り上げ、交流磁界の周波数上昇に伴うμ値の遍歴ぶりを個別に観察したわけだが、この節では、少々やぶにらみ的な思考実験を試みてみたい。

そこで、さっそくだが、"素のまま"のフェライトを取り出し、それに、いきなり10GHzを超えるマイクロ波を加えることにする。スピン磁気モーメントの固有振動数ω、すなわち自然共鳴周波数f0(n)は、そのフェライトに固有の異方性磁界HAの大きさに比例し、その値は限界を極めてもせいぜい3000MHz程度であった。したがって、そのレベルをはるかに超える高周波磁界にさらされた磁気モーメントは、μが負の極大値となる前節のモデルeのさらに先、位相差180°をひきずった負の状態のまま極めて微小な回転半径に頭を縛りつけられた(μ値は1よりわずかに小さなレベルにある)fのモデルの延長線上にある。直流磁界Hdcは加えられていないので、それらの磁気モーメントは磁区内において整然と平行に並びながらもフェライト全体としては三次元的にランダムに分散するそれぞれのHA方位に頭を向け、かすかに、しかし、高速で回転しているわけである。

そこで、このような終末的な様態に磁気モーメントを追い込む高周波磁界の"性質"をもう少し詳しく観察するために、ちょっと視点を転換してみたい。といっても、手間のかかることではなく、身動きがとれずうなるばかりの磁気モーメントから、"ねじれる電磁波"の怪に話をつなぐには、下に示す素朴なモデルがひとつあれば十分である。つまり、空気中を伝播する電磁波(直線偏波)は、それと同じ周波数かつ同位相で右と左に回転するふたつの円偏波に分解することができる。

円偏波電磁波伝ぱんモデル

そこで、たとえば、モデルの右方にある赤い矢印のポイントに立ち、電磁波の進行方向に顔を向けた状態で、眼前を次々と通過する2つの円偏波の変わり様を眺めてみると、上の列の矢印は、クルクルと右回りに回転しているように見え、下の列のそれは、反対に左回りに回転しているように見えるはずである。そこで、右ネジと同じ回転を見せる前者を正円偏波、反対に左ネジの回転となる後者を負円偏波と呼んで区別するわけだが、空気中の伝ぱん状況を示したこのモデルでは、両者は同位相で回転しているので、合成ベクトルはどの瞬間においても元の直線偏波と重なることになる。

さて、中断していた思考実験に、直線偏波を2つの円偏波に分けるこの視点を取り込んでみたのが、下のグラフである。前節では交流磁界の周波数を横軸にとったが、今度は直流磁界の強さが横軸にくる。つまり、あらかじめ12000MHzの高周波磁界を加えた"素のまま"のフェライトを用意し、そこに直流磁界Hdcを次第に強く加えてみたらどうなるか、という実験である。磁気モーメントの固有振動数ωは直流磁界Hdcが加えられるにつれ高周波側にシフトする。したがって12000MHzという高周波磁界を印加されたフェライトでも、固有振動数ωが12000MHzに到達する瞬間が訪れ、強磁性共鳴現象が引き起こされるはずである。

μ-Hdc特性円偏波モデル01

磁気モーメントの一連の挙動は、下のモデルでご確認いただくとして、ここで、ご注目いただきたいのは、グラフ中の2本の点線、すなわち直線偏波を正負ふたつの円偏波成分に分けたときに生じるμ値の挙動である。冒頭で確認したとおり、直流磁界Hdcを加える前の"素のまま"のフェライトのμ値は、この周波数においては、限りなく1に近いレベルを低迷していたわけだが、グラフに示すとおり、Hdcを印加したとたんに正円偏波のμ+は一気に下降し、反対に負円偏波のμ-は2近くまで跳ね上がる、という奇妙な振る舞いを見せる。

正円偏波の透磁率μ+と、負円偏波の透磁率μ-に見られる大きな差異は、それぞれの円偏波がフェライト素子を通過する際に測定された実測値を元に割り出されたものだが、この結果によれば、直線偏波(実線)がもたらす強磁性共鳴は、圧倒的に正円偏波成分によって引き起こされていることがわかる。下のモデルに示すとおり、直流磁界Hdcの方位は直線偏波の磁界変化方位と直交するように加えられているが、この条件により、磁気モーメントの回転方位は直流磁界方位、すなわち高周波磁界の進行方位(このモデル図においても下方から上方にむけて進行する)を軸とする右回り(右ネジ)の首振り運動となる。つまり、正円偏波の回転方向と磁気モーメントのそれは一致し、負円偏波とは逆回りの関係となるわけだが、まさにその決定的な違いが、マイクロ波の偏波面を回転させる仕掛けとなる。

Hdc印加による強磁性共鳴モデル

μ+とμ-を合わせた実線、すなわち直線偏波のμは、Hdcが強まるのに伴い、一度跳ね上がった負円偏波のμ-が再び1近傍に低下してしまうために、急角度で下降する正円偏波のμ+をなぞるようにマイナス方向に沈んでいく。μ値のこの急降下は、交流磁界の極性変化と磁気モーメントの方位変換が完全に逆転した状態で磁気モーメントの回転半径が急速に拡大する"負の領域におけるμの急上昇"ともいうべき現象で、モデルbに示すように、その先にはμ値が負の極大に達するポイントが現れる(グラフのbポイント)。そこで、もうひと押しHdcを強めれば、磁気モーメントの固有振動数ωが12000MHzに達する強磁性共鳴ポイントに至るが(グラフのcポイント/モデルc)、さらにHdcを強めると、磁気モーメントのωが12000MHzを超えることになるので、あたかも周波数を高めていった前節の自然共鳴モデルのc→d→eプロセスを巻き戻すような流れ(強磁性共鳴に至る前の状況に戻る流れ)となり、共鳴時に90°だった位相差は正の方向に向けて次第に狭まり、μも一気に上昇して正の極大ポイントに至る(モデルd/グラフのdポイント)。

μ-Hdc特性円偏波モデル02
                    

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