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第186回 歌詞とメロディーを入力して自然な歌声を合成する技術 〜VOCALOIDTMを知る〜

自然に聞こえるためには
合成音声で「歌唱」させるために大切な機能

 元音声による歌唱を収録したら、専用のソフトウェアを使って元音声を音素に分解し、「シンガーライブラリ」を作ります。ボーカロイドのパッケージは、このライブラリに加えて、歌詞の内容を楽譜に割り当てていくツール「ボーカロイドエディタ」と、ライブラリに収録された音素を使って実際に歌唱を行わせる「音声合成用エンジン」で構成されています。

 ボーカロイドに「歌唱」を行わせるためには、まず楽曲の譜面を作り、次にボーカロイドエディタで楽譜に歌詞を割り当てる作業が必要になります。現状のボーカロイドは、これだけでも一応「歌唱」に聞こえるように細部を自動調整してくれるのですが、前述したような歌唱上の表現を強調したり、より自然な、もしくは特徴的な歌声として聞こえるようにするためには、ボーカロイドエディタの各種機能を使って、細かく調整していく作業が必要になります。ユーザーの間で「調教」などと呼ばれるこの作業いかんで、同じボーカロイド製品を使っているユーザー間でも、それぞれに個性のある歌唱が実現しているのです。

 ボーカロイドの開発者であるヤマハ株式会社の剣持秀紀氏は、ボーカロイドを「あくまで楽器」と位置付けているそうです。音楽関連機器のデジタル化によって、さまざまな楽器の音色がコンピュータ上で再現・編集できるようになった流れの上に、新たに合成音声が加わったことでDTMにおける表現の幅が広がったことは事実ですが、「だからといって、ボーカロイドが歌手の存在価値を下げたり、歌手を置き換えてしまうものとは考えていません」とも断言します。

 昨今、有名ミュージシャンの「ライブ」でも伴奏を自動演奏化している例は多々ありますが、それは音楽表現の一形態にすぎません。ボーカロイドにしても、それを使うことで超ハイトーンや息継ぎなしでの早口歌唱といった、人間では不可能な歌唱表現が可能になり、その意味で「歌」の可能性を拡げることは確かです。また、歌詞の内容や要求される歌唱法から歌手に敬遠されがちな表現を実現することもできます。何よりの利点は、常に譜面通りの歌唱を、何度でもリテイクさせられることかもしれません。

 そして、自動演奏と人間の演奏は対立し合ったり、互いを排除する関係ではないと筆者は考えています。自動演奏が普及する一方で、昔ながらに人間が楽器を演奏するライブ演奏が「その場でしか聴けない音」を楽しむ機会として価値を高めてきたという事実もあります。さらに、ライブ演奏上で自動演奏機材が使われることもまったく珍しくはありませんが、そのことでライブ演奏の可能性はむしろ広がったと言ってもいいでしょう。自動演奏機材は、人間の表現行為の幅を広げるツールとして人間と共存し、互いに影響を与えあうものなのです。

音楽の可能性をより自由で豊かに
 ボーカロイドも、あくまで作業の効率化やボーカロイドにしかできないことを実現するために使うツールとして、まずは使われていくことになるでしょう。場合によっては、いずれ人間の歌手にも影響を与えていくことになるかもしれません。

 その意味も含めて、今後のボーカロイドにとって重要かつ難しい点は、作業の効率化・自動化を進めなくてはならない反面、使い手による表現の自由度を残しておかなければならない、そのバランスです。ボーカロイドの進化の方向性の一つとして、自動化のレベルアップがあげられます。譜面に歌詞を割り当てていくだけで「完璧な歌唱」が実現できれば、非常に便利でしょう。しかし、それを「誰が使っても同じアウトプットが得られる」と考えるのか、「誰が使っても同じアウトプットしか得られない」と考えるかによって、評価が分かれることになります。

 現状のボーカロイドは、使い手のさまざまな工夫によって独自の歌唱表現を得る、いわゆる「調教」作業が「使いこなし」のテクニックとなっており、それによって使い手ごとの個性が得られています。その余地をもって、剣持氏はボーカロイドを「楽器」と呼んでいるのだと筆者は解釈しました。

 さまざまな作業の「自動化」は、IT関連技術が私たちの生活にもたらす大きなメリットの一つです。音楽作成ならびに演奏の自動化も、ある面において大きなメリットをもたらしました。そして、ボーカロイドの登場によって、ついに「歌声を自在に操る」ことが可能となったわけです。「新しい楽器」としてボーカロイドが実現する音楽表現が、音楽全体の可能性をより豊かなものにしてくれることに期待しておきましょう。

取材協力:ヤマハ株式会社


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など


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